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第十九話 伯爵領の悪魔 その2

 怪鳥に襲われる男、ニックはかなり不運な男であった。彼は農家の人間であるが、最近は作物が育たず、収入が少ないため、妻との関係も悪化している。育ち盛りの娘も満足に養えない。


 何とかやっとの思いで育てた作物も、別の町に売りに行こうとすれば、帰り道に怪鳥に襲われる。


 なぜ自分ばかりこのような目に合うのだろうか、今日ほど神の存在を疑ったことはない。


「あ、あはははは……。こりゃ、どうしようもねぇや」


 あきらめたようにそうつぶやき、地面に崩れ落ちる。目をつぶり、己の不運を呪いながら来世に期待する。


「さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ!。はじめに言っておくが俺はまずいぞ!」

「人間を食う趣味はない」


 怪鳥に食い散らかされることを覚悟したその時、頭上から男性の声が響き渡る。


「うへぇ?」


 目を開くとそこには刀を握り、キツネ面をかぶった中年の男、ユウサイがどっしりと構えていた。


「あ、あんたは死神か?、というか、あの怪鳥どもは……」


 ユウサイの尋常ならざるその気配に瞠目して、つい身構えてしまう。


「ああ、心配いらん」


 そう言ってユウサイはニックに手を差し伸べる。立ち上がり周囲を見ると、首を切り落とされた怪鳥が地面に血をだらだらと流しながら死体となっていた。


「いきなり飛び出さいでくださいよ、師匠」


 状況が飲めず、あんぐりと口を開けて間抜け面をしばらくさらしていると、後ろから西洋兜をかぶった十台中ごろの少年が荷車を引いて走ってきた。


「大丈夫ですか?。怪我とかしてたら一応、魔法薬はありますけど」


 親切に少年は荷車から薬箱を取り出す。


「い、いや、大丈夫だ。それよりあんたたちは……」

「ワシらは旅のもんだ。たまたまこの辺りを通りかかったら、お前さんが襲われてるのが見えたのでな、助けに来た。ワシがユウサイで、こっちがカズヨシ。お前さん、名はなんという?」

「俺はニックだ……、その、助かったよ。絶対に死んだかと思ったよ」


 ニックはいまだ心ここにあらずといった様子で返事を返す。


「しかし、あんたすごいな。ジャイアントグリフを一瞬で三匹も殺してしまうなんて……なんというか、普通じゃない」


「別におだてんでもいい。それではな。次は襲われんように気をつけるんだぞ。行くぞ、カズヨシ」


 そう言ってユウサイは見返りも求めずにその場から立ち去ろうとする。


「ま、待ってくれ、さすがに礼くらいはさせてくれないか?。あんたら旅人なんだろう?。だったら近くに俺の村があるんだが、今日はもうすぐ日も沈むし、よかったら泊まっていってくれないか?」

「しかしな……何も、見返りが欲しくて助けたわけではないんだが……」

「いいんじゃないですか?。予定よりもかなり早く目的地には着きそうですし、野宿よりは僕はそっちのほうがいいです」

「そうだろう、そうだろうとも。さあ、恩人をみすみす返しちまったんじゃ、死んじまったおやじに顔向けできねえ。どうだい?」

「うーむ、ではそうさせてもらうとしよう」


 渋々ユウサイは承諾すると先ほど仕留めたジャイアントグリフの死体を荷車に運び込み始めた。それに続いてカズヨシも死体運びを手伝う。


「その死体はどうするんだい?」

「ジャイアントグリフの肉はうまい。羽毛も洗って布か何かに包めば、座布団や布団になる。そのためにわざわざきれいな状態で、血抜きもできるように首だけを落としたんだ。それに、このままほおっておけば死体が腐敗して、よくない菌をまき散らす」

「へえ、そいつは初耳だ。まあ、それの肉を食おうなんて発想自体、うちの村にはないからなあ」

「ならば、そちらの村に着いたら食わせてやろう」


 ユウサイはそう言い終えると怪鳥の死体を運び終え、荷車を引き始める。


「ああ、それは楽しみだ。さあ、ついてきてくれ」


 そう言ってニックは荷物を背負い込み、ユウサイとカズヨシを案内する。


「この辺りはよく、あんなのが出るんですか?」


 不意にカズヨシが口を開く。本来であれば人里の近い整備された道に怪物が出ることはめったにない。少なくともエラスではそうだった。


「ああ、以前はそうでもなかったんだが、最近はよく出るようになったな……」

「最近?。何かあったんですか?」

「まあ……そうだな。村につけばそれもおいおい話すとしよう」


 ニックは話を濁すようにして前を見据える。あまり話したいことではないことが容易にうかがえた。


「師匠、ちょっと訳ありっぽいですよ」


 ユウサイの耳元で小声でつぶやく。


「らしいな。まあ、化け物の相手なら問題はないだろう。お前はしっかりと休むといい」


 ユウサイにそう言われ、カズヨシは荷車の中で深く腰を据える。しかし、固い木材が尻に痛かった。村に着いたら羽をむしって早々にクッションを作ろうと思った。


「見えてきたぞ。あれが俺の村だ」


 しばらく歩くと、ニックが口を開く。遠くから見えるその村はどこかさみしい、陰鬱とした雰囲気の漂う、あまり感じのいい村とは言えなかった。



次回の投稿は明日の18:00〜18:30ごろになります

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