第十六話 山の麓の町のとある物語 その13
カズヨシがエリナに所持金を超える服をねだられ、対応に困っているところで突如、外から轟音が響く。慌てて飛び出し、音のした方角を見ると、そこには見たこともない黒い物体と一人の初老の男性がたっていた。
「シショウ、ナンデココニ?」
「よく見えるわね」
カズヨシは目がよかったため何とかユウサイを認識することができたが、エリナには二つの点程度にしか見えなかった。
「モウスコシちかよろウ」
そう言ってカズヨシはエリナの手を引く。
「ちょ、ちょっと」
数秒もしないうちにエリナは足がもつれ、カズヨシにもたれかかるように躓く。
「は、早いってば」
エリナは丈の長いスカートをはいており、靴も走りやすいものとは言えなかった。それに加えてカズヨシに自覚はないが、彼の山で鍛えられた足腰は大人顔負けのものであった。
「え、うわぁ!」
仕方なくカズヨシは無理やりエリナを背負いあげ、ユウサイのもとへ駆け寄るのであった。
この世界に来てからカズヨシの娯楽は数少ない。その中でも最も気に入っていたものはユウサイの芸術的なまでに美しい絶技を眺めることであった。
その絶技をエリナにも見せてあげたいというカズヨシの思いがいつもよりも彼を大胆にさせた。
「スゴインダヨ、シショウのわざ」
兜の下からでも喜んでいることがわかるほどにカズヨシの声は高揚していた。そんなカズヨシを見てエリナはどこか、お姉さん風を吹かせるように深く納得したように「もう」と息を吐く。
ある程度近づき、エリナからも何とか人影が視認できるようになったその時であった。黒い物体が高速移動を開始し、ユウサイをまるでボールのように四方八方へと吹き飛ばすさまが映し出される。
その光景を目にし、エリナは嫌な真実にたどり着く。
「あれって、上位悪魔じゃないの!?」
「ジョウイアクマ?」
「おとぎ話なんかにも出てくるめっっっちゃ強い悪魔よ!。あんなの人が勝てるわけない!」
「うーん、デモ、ダイジョウブダよ」
エリナにはカズヨシののんきな態度が全く理解できなかった。身内がやられているというのにまるで意に介さないといったような、その態度に嫌悪感を抱いてしまうほどである。
「どうしてそんなことが言えるの!」
そう言い放った瞬間、ユウサイは天高く舞い上げられ、太陽の光がその姿をまざまざと映し出す。
そして悪魔は黒い火の玉を数個出現させ、ユウサイめがけて火の玉を投げつける。
エリナはその黒い火の球を見て昔みたおとぎ話を思い出す。そのおとぎ話の中では悪魔によってお姫様はさらわれ、騎士たちは悪魔からお姫様を助けに向かうも返り討ちに会い、最後は町を黒い炎で包み、悪魔もお姫様も町も姿を消してしまうのだ。
もう駄目だと目を背け、爆発に備えるように自分の手で頭を抱える。
しかし、待てど暮らせど爆破の気配はない。おそるおそる目を開け、空を見る。するとそこには信じがたい光景が広がっていた。
そこで爆散しているはずのユウサイはまばゆいばかりの輝きを刃から放ち、黒い火の球を完全にかき消して見せたのだ。
その姿はさながら、聖剣を持つ伝説の中の英雄のようであり、エリナには何が起こったのか一切の判断がつかない。
そしてしばらくしてユウサイは屋根の上に身を下ろし、再度、悪魔と対峙する。そしてしばらく何かを話したのち、瞬きも叶わぬほどの高速の絶技をもって悪魔の首をはね飛ばしたのだ。
「ね?、スゴイデショ!」
カズヨシが嬉しそうにエリナに問いかける。
「う、うん」
内心、何が起こったのかわからずエリナは困惑しながら返事をした。
そして冷静になりエリナの中にある疑問が生まれる。
あの男性のもとで山暮らしをしているカズヨシもいずれはそうなるのではないだろうか?、と。現に自分を背負ってここまで走ってきたのに息切れ一つしていないカズヨシの体力は常軌を逸するものを感じる。
これに加えて、あの男の剣術を受け継いだとなれば、もしかすると将来大物になるのではないかと考えてしまったのだ。
内心、言葉もまともに話せないカズヨシをバカにしていたエリナは自分の考えが実に愚かだったかもしれないことに気づき、息をのむ。
それと当時にもう一つ、乙女らしいといえば乙女らしい、とある期待をしてしまう。この友人であれば自分を守るおとぎ話の強くて格好いい騎士のようになってくれるのではないか、と。
彼女の今、置かれた立場からすれば無理のないことなのかもしれないが、それでもいつか、カズヨシが白馬にのって自分を守ってくれることを夢見るのであった。
「ねえ、カズヨシ」
「なに?」
「明日、大事な話があるの」
エリナの今まで黙ってきた秘密をようやくカズヨシに話す心づもりができたその瞬間であった。
次回の投稿は本日の22:00〜22:30ごろになります
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