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第十五話 山の麓の町のとある物語 その12


 ユウサイは山同様、今度は家屋の屋根の上を鳥のようにはねて黒い物体のそばまで近づく。


 到着するとあたりは地獄絵図であった。はじめに燃えた家屋から別の家屋へ火は燃え移り、近くの住民は逃げ惑うのみであった。


「おい、そこの黒いの。お前は何者だ」


 黒い物体は黒い貴族服を着た男であった。しかし、男といってもおおよそ人間といえる容姿ではない。大柄で、肌は赤く、ヤギのような角を生やしている。さしずめそれは、悪魔というにふさわしい容貌であった。


「貴様こそ何者だ。このヘイウェス様に名乗ることを許そう」

「ずいぶん上から目線な自己紹介だな。堂々と名乗れるほどの大層な名は持ち合わせておらんよ。とりあえず今のところはお前さんを追っ払いに来たもの、といったところか」

「人間風情がこの私を追っ払うだと?。できると思っているのか?。見たところ魔力も持ち合わせん雑魚にしか見えんのだが」

「そうさな。ワシもちと心配ではある。できれば殺さんようにしたいんじゃが、まあ、殺してしまったときは許せ」

「なんだと」


 ヘイウェスと名乗る悪魔は真っ赤な肌をさらにこうこうと赤くさせ、怒りの形相でユウサイをにらみつける。


「まあ、落ち着け。それで、お前さんは何をしに来た」

「貴様らゴミどもの選別さ。至高なる御方々は近い将来この天井の地を崩壊させるつもりでいらっしゃる。その時に厄介になりそうな輩を今のうちに排除しておこうというわけだ」

「ほう。ならばちょうどいい。ワシはおそらくお前さんらの言うところの厄介な輩だ。存分に試してみるがしい」

「ふっ、そうさせてもらう!」


 悪魔がそういった瞬間、空気が揺れ、ユウサイの視界から悪魔は姿を消す。そして「こっちだ!」と大声で悪魔はそういうとユウサイに背後から筋骨隆々の人間の倍以上の太さのある足でドロップキックをはなつ。


 ユウサイはそれを鞘に納めた刀で受け止め、衝撃で前方に吹き飛ぶ。そしてまたも悪魔はユウサイの視界から消え、今度はユウサイの飛ばされた先に出現し、ユウサイを殴り飛ばす。


「どうした!。口ほどにもない。この程度で御方々に太刀打ちできると思っているのか!」


 まるで一人でテニスをするようにせわしなくヘイウェスは動き回り加速を繰り返す。そのたびにユウサイを殴る威力は二次関数的に上がっていく。


「ふん、つまらん。これで終わりだ!」


 そういうとともにヘイウェスはユウサイを空高く蹴り上げる。


「“黒炎“」


 その言葉とともに悪魔の背後に六つの黒い炎の球が出現する。そして自由落下し始めるユウサイに向けて無慈悲にその炎は放たれるのであった。


「ふん、他愛もない」


 黒炎がユウサイに接触するまで、残り一秒の間もありはしない。あとはユウサイと共に黒炎が大爆発を起こすのみである。


 誰の目から見ても悪魔の勝利は確実であり、ユウサイの敗北は必至であるかのようにみえた。しかし、その瞬間、信じられないことが起こる。


 空中で足場がなく、踏ん張りがきかないはずのユウサイから目にもとまらぬ剣の舞が太陽の光をまばゆく乱反射させる。そしてその剣舞が終わるとともに大爆発を起こす予定であった黒炎は跡形もなく消え去っていた。


 ユウサイの編み出した対空用の型、その名は“虚ろ裂き”。


「なっ」


 まるで蝶が舞うように、すべてを無に帰す絶技にヘイウェスは息をのみ、思わず見惚れてしまう。それほどにユウサイの動きは洗練されており、何者も叶わぬ修羅の領域に足を踏み入れているのだ。


 本来、魔法を切り裂くことは不可能に近い。攻撃魔法であればたいてい、その攻撃の中に魔法核と呼ばれる魔力の源が存在する。それを切り裂けば理論上は魔法は停止し、止めることは可能ではあるが、常人では高速で動く攻撃を切り裂くこともままならない。さらに、その魔法核を的確に狙って切り裂くなど、数百の針に一度のうちに糸を通すような常軌を逸するものであり、明らかに尋常では不可能な芸当である。


 しかし、ユウサイはそれをさも簡単に、実践の場にて成し遂げてしまうのであった。


「貴様……人間ではないのか……?」


 ユウサイが家屋の屋根に降り立つとともにヘイウェスは正気に戻り、同時に戦慄する。


 少なくとも、この瞬間に至るまで、ヘイウェスはユウサイに対して十数回の打撃を加え、最後に爆破魔法による追撃を加えていた。にもかかわらず、ユウサイの身には傷一つありはしなかった。初めてその姿を認識したその瞬間から何一つ変わってはいなかったのだ。


 ヘイウェスは魔界内でもそれなりの実力者であると自負していたが、目の前の男の底知れぬ実力に生物としての恐怖心が刺激される。


「失礼な。ワシは正真正銘、まっ赤な血が通った人間だ」

「ならばどうやってあの攻撃をしのぎ切った!。答えろ!。俺の蹴りは岩を砕く!。人間が食らえば一撃で即死してもおかしくはない!。いや、むしろそうあるべきだ!」

「ほう、それはすごい。しかし、お前さんの力よりもワシの技が上だった、ただそれだけのことだろうよ。冥途の土産に教えてやろう。お前さんの蹴りは槍よりも鋭い。お前さんの拳は鉄よりも固い。だがそんなものは技の前には何の意味もなしはせん。少なくとも、ワシの技の前ではな」


 ユウサイはヘイウェスの技を食らう瞬間、受け流しの技、“水面”を駆使していた。


 攻撃ではなく相手の攻撃を受け流すことのみに特化したこの技は他人であればいざ知らず、ユウサイの領域をもってすれば大砲、あるいはそれ以上のものですらも意味をなさないほどのものとなっていた。


「何か言い残すことはあるか」


 そう言ってユウサイは腰の刀に手をかけ、技の姿勢に入る。


「俺を殺して、お前に何の得がある」

「まあ、得はないだろうな。しかし、この期に及んでは損をしてしまう。お前を逃がせば家を焼かれたもんにワシが恨まれかねん。だから……」


 そう言った瞬間であった。ヘイウェスの視界は上下が反転し何かを失う。


「おとなしく死んどいてくれんか」


 ユウサイがそう言うといつの間にか、ヘイウェスの背後に回っていた。そして次の瞬間、ヘイウェスの首は力なく地面にぽとりと転げ落ち、肉体は糸が切れた人形のようにその場に横たわるのであった。


 その一瞬、誰もユウサイの刀を目にすることはなかった。あまりにも早すぎるその斬撃を視認することができなかったのだ。


 無理もない話である。ユウサイの放った高速の絶技“空断ち”は目にもとまらぬ速さで敵を一刀両断するユウサイの持つ技の中でも最も単純でありながら最速の技であった。


 技の実態は目にもとまらぬ居合抜きで相手を一思いに両断するという単純なものではあるが、単純であるがゆえにその境地に至るまでの道のりは果てしない絶技である。


 ヘイウェスには何が起こったのか、一切わかりはしなかった。首を斬られ、ああ球が落ちるその時、ぐるぐるになる視界と、脳みその大量の疑問を残してヘイウェスはこの世から去っていくのであった。


次回は12:00〜12:30ごろの投稿になります

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