第十四話 山の麓の町のとある物語 その11
一章は前振りや設定的な部分が多いのでサラッと読み流していただければ幸いです
「ねえ、カズヨシ」
「なに?」
「あなた、どうして急に魔法が使えるようになったの?」
エリナはけだるげにカズヨシに質問する。
「うーん、まあ、チョットね」
ローネという旅人がカズヨシに贈り物をして早一週間。あれからローネはすぐに別の町に向かった。なんでも珍しい薬草がその町では栽培されているらしい。
ユウサイはというと、あれからより一層剣術の修行に精を出すようになっていた。おかげでカズヨシは最近、やっと訓練内容に慣れてきたと思っていたのにここ一週間は筋肉痛で地獄のようである。
また、九年後に裂け目に向かうための路銀を稼ぐために役場でいくつか仕事を見つけてきていた。羽振りがよくなり、カズヨシも小遣いとして銅貨を十五枚ほど持たされていた。
「ねえ、カズヨシ」
「なに?」
「おなか減った」
「うーん、オヒル、たべてナイの?」
「食べたー」
エリナは心底つまらないといった様子で椅子に座ったまま机にもたれかかり、足をプラプラと揺らしていいる。
おおかた、分厚い魔導書にあきが回ったのだろう。
カズヨシはというと、魔法の勉強に興味が出てきたため、言い出しっぺのエリナよりもよっぽどまじめに勉学に取り組むようになっていた。今もエリナをしり目に生返事を返すばかりである。
「ねえ、カズヨシ」
「なに?」
「今日は天気がいいわね」
「うーん、ソウダネ」
「こんな日はお日様の光をしっかりと浴びないといけないと思うのよ」
「うーん、ソウカモね」
「だからカズヨシ、今日はデートしましょ」
「うーん、……エ?」
イエスマンのように返事をしていると突然、突拍子もないことをエリナは口にする。そしてカズヨシはわけがわからず間抜けな声を出すや否や、エリナはカズヨシの手を引き、図書館から飛び出してしまった。
***
「おじさん、一つちょーだい」
「あいよー。銅貨四枚ね」
エリナはカズヨシの所持金で図書館から出るや否や焼き菓子を購入する。数少ない所持金の四分の一以上をいきなり使われ、なんともやるせない気持ちになりながら傍若無人なお姫様のあとを追うのであった。
「ヒドイヨ。ジュウゴマイしかナイのに……」
「男なんだから細かいこと気にしちゃだめよ。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうわ。それより、ちょっとは喜びなさいよ。こんなにかわいい女の子とデートしてるんだから」
「で、デモ……」
カズヨシが反論しようとした瞬間、エリナは無理やり兜の下から焼き菓子をカズヨシの口に突き刺す。
「おいしいでしょ!」
満面の笑みでエリナはそういった。無邪気なその笑顔にカズヨシは文句など忘れ、ただ見とれてしまう。そして、エリナと焼き菓子を介して間接キスをしてしまったことに気づき、顔を真っ赤にする。
「どうしたの?」
「ナ、ナンデモ、ない」
「ふーん、へんなの。あ、つぎはあっち行きましょ!」
そう言ってエリナは露店が並ぶ通りに向かう。やはりこの町は可もなく不可もなく、にぎわっているわけでもなければ、閑散としているわけでもない。露店の通りも普通に人々が買い物をしていた。
「ねえ、あれは何かしら?」
「アレは……」
エリナの指さした方向には色も形も大小さまざまな鉱石が並んだ露店であった。
「あの黒い石はなんていうのかしら」
「あれはコクヨウセキ、カナ」
「じゃあ、あの銀色のは?」
「サワってミナイトわからないケド、テッコウセキ、カナ」
「じゃあ、じゃあ、あのきれいな緑色のやつは?」
「あれはエメラルド……カナ?」
「へえ、物知りなのね。どうしてそんなに詳しいの?」
エリナの何気ないその質問にカズヨシは言葉に詰まり、忌々しい過去を思い出す。カズヨシの鉱石に関する知識は二年に及ぶ奴隷生活の間に培われたものである。そのため、口が裂けてもエリナに真実を伝えることはできなかった。
しかし、エリナはそんなことは知らず、無邪気にカズヨシにしつこく尋ねるのであった。
「た、タマタマダヨ……」
唐突にカズヨシが口にする。その言葉を聞き、エリナも何かを察したのか、カズヨシなら図書館で知識を得たのだろうと考え、それ以上は言及しなかった。
「次、あっち行きましょ!」
そう言ってエリナは鉱物への興味などみじんも消え失せたかのように別の露店へカズヨシを引っ張るのであった。
そんな光景を遠くから眺める人間が一人いた。
「あいつも隅におけんやつだ」
そういう男性は横から見れば仮面の下からもわかるほどニヤけ顔で二人を眺めていた。ユウサイである。
ユウサイは山でこなせる仕事を早々に終わらせ、役場に報告しに来ていたのだ。そしてついでに自分の息子の様子でも見ようと図書館に立ち寄ろうとしたところ、露店にいるのを発見したのだ。
すると、女の子と逢引しているのだからこれは親として見守ってやらねばと遠くから眺めていたのだ。
(しかし、カズヨシのやつ、色気づくのが早すぎるな。ちと将来が心配だ)
ユウサイは日本では別にモテなかったわけではない。十五で結婚もしている。しかし、ユウサイが十一の頃といえば、家で剣の修行と勉学に明け暮れる日々であった。恋愛などしている暇はなかった。
そんなユウサイが見守っていることなど全く二人が気付く気配はない。
のんきな顔をしてユウサイは二人のあとをつける。やはり二人はユウサイに気付く気配は全くない。そのためか、先ほどの間接キスだけでなく、エリナのほうからカズヨシの兜にキスをするシーンもあった。カズヨシもまんざらではなさそうにもじもじとするのであった。
そして二人はカズヨシが服を買った服屋に入る。さすがに店内に入ればバレると思いユウサイは外で二人が出てくるのを待つ。
その時、偶然空を見上げたその時、空に黒い何かが浮かびあがっている様子がユウサイの目にうつる。
その黒い物体はだんだんと町に近づいてきて、形が何とかわかるほどになったところで周囲に黒い火の玉を出現させた。いたい何事かと様子を見つめていると、その火の玉は次の瞬間、高速で近くの家屋に飛び去って行った。
そして、轟音と共に命中した家屋が異様な速度で燃え上がる。あたりは一瞬にして大惨事と化したのだ。
「おいおい、息子のデートの日に、なんともついていない……」
ユウサイはなんともけだるげに、忌々し気に、そうつぶやくと、戦闘態勢に入るのであった。
次回は明日の8:00から8:30ごろになります
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