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第十二話 山の麓の町のとある物語 その9


「狩りの途中でお前の姿が見えた。それで少しばかり聞かなくちゃならんのだが……」


 ユウサイは訝しげな表所をしてカズヨシの兜の中をのぞき込む。


「さっきお前が宙を飛んでたように見えたんだが……」

「そうなんですよ、師匠!。僕、魔法が使えるようになったんです!」


 カズヨシは興奮気味でユウサイに嬉しそうに、自信満々にそう答えた。一方ユウサイは自分の目が信じられないといったような間の抜けた表情でカズヨシを見続けた。


「……いや、ありえんだろう」

「でも、ほら」


 そう言ってカズヨシは絞りカスのようなわずかな魔力で周囲の手ごろなサイズの石を宙に浮かせて見せる。


 それをみてユウサイは眉間にしわを寄せ、より一層、困惑した顔で閉口するのであった。


 そしてしばらく考えた後、カズヨシの肩をつかみ、真剣な顔をする。


「お前、何か変なものとか口にしなかったか?」

「え、えっと……、」


 ユウサイの問いかけに一つだけ心当たりがあった。そう、ローネからもらった魔力水である。


「魔法使いの人から道案内してあげたお礼にと、魔力水をもらいました」

「魔力水?、それは本当にただの魔力水なのか?。特徴とか、覚えてることは?」

「えっと……、特に目立ったところはなかったです。最初はただの水だと思ったくらいですから」

「ただの水?」

「はい」

「馬鹿を言うな。普通の魔力水は馬鹿みたいに苦いし、臭い。おまけに色は毒々しい藤色だ。一部の魔法使いは薬物中毒者のようにあれを買いあさると聞くが、水と間違えるはずがない!」


 ユウサイの言葉を聞き、カズヨシは自分が得体のしれないものを口にしていたことにわずかな恐怖を感じる。


 そして同時にローネからもらったあの液体の正体が気になりだした。


「明日、ワシも町にいこう。お前にその怪しい水を渡した奴には聞きたいことができた。全く、もしもらったもんが毒だったらどうするんだ!。今回はたまたま運が良かっただけで、今後もそうとは限らん。異国人とはそれだけで反感を買うものなんだ。少しは自覚しておけ」


 そう言ってユウサイはカズヨシを抱きかかえ、山小屋まで軽快に山を駆け上がっていった。


 山小屋に戻るとユウサイはローネの特徴や、今日あったことを事細かく聞いてきた。いつもとはどこか様子の違うユウサイを変だと思いながらも聞かれたことに素直に答えていく。そして最後に食後の修行の最中にふと、ユウサイが昔のことを語り始めた。


 その内容はユウサイが旅に出た目的についてであった。ユウサイの旅の話は以前聞かされていたが、それでもカズヨシはその話が嫌いではなく、むしろ、おとぎ話のようなその内容をうらやましく思っていた。しかし、旅の目的については聞いたことがなかったためその話を聞きいることとなる。


 内容は単純なものであった。ユウサイはもともと剣術を磨き、世界一の剣豪になり、異世界人でありながら世界中にその名をとどろかせようという夢を召喚されてきた当初は持っていた。しかし、その夢は儚くも、あるものの存在によって灰となるのだ。


 それが魔法である。


 魔法を使えばたとえ平民であっても百人力を手に入れることができ、自由に空を飛び、鉄砲玉をもしのぐ強力な攻撃を繰り出すことができる。そのさまをまざまざと見せつけられたのだ。


 剣術に人生をささげていたユウサイにとってそれは耐え難いことであった。


 己の血のにじむような努力を大した努力もなしに魔力があるというだけの人間に追い抜かされる。その悲痛な気持ちは常人の耐えうるどのような苦痛すらも凌駕するものであった。


 しかし、いや、だからこそ、ユウサイは自分が魔法を手に入れることができたのであれば、自分の夢をかなえることができるのではないかと考え付いたのだ。


 そのために、ユウサイは魔力を手に入れるための旅に出た。しかし、現実は非常で、何の手がかりもないまま五年の時が過ぎた。次第に、不確かなものを追うことがばかばかしく思え、旅をやめ、自分には才能がなかったのだと諦め、初心に帰り、剣術のみにその身をささげることを誓い、山にこもった。


 その結果として今のユウサイがあるのだ。


 カズヨシはユウサイ以外の剣士をこの世界で見たことはなかったが、それもユウサイ以上の技量を持った剣士はこの世界のいかなる場所を探そうともいないであろうと確信していた。それゆえにユウサイの卓越した技量に強いあこがれを抱いていた。


 ユウサイは旅の目的を話すと夜空を見上げ、目を閉じ、強く、勇ましく、木刀を構える。その姿はあまりにも洗練されており、どのような宝石よりも、夜空に浮かぶ数多の星々の輝きよりも美しく、およそ、人の到達しうる、“技”を体現していた。


 そしてユウサイにとっては何でもない、数えるのもばからしいほどに繰り返してきた一太刀をふるう。その一つ一つの動作は、まるで寸分の狂いもない電子機器のように正確無比の完成されたものであり、この域に自分が到達するのはいつになるのだろう、いや、一生をかけたとしてもこの人に近づくことができるのだろうか、とカズヨシは不安になる。


 最後にユウサイは構えを解き、カズヨシに語り掛ける。


「カズヨシ、覚えておけ。諦めるのは、そんなに簡単なことじゃない。お前はこんな老いぼれにはなってくれるな」


 そういうユウサイの目はどこか寂しげなもので、カズヨシの不安を余計にかきたてた。


「さ、今日はこの辺りで終わっとくか。風呂に入るぞ」


 先ほどまでとは打って変わり、ユウサイはいつも通りに戻ると風呂の準備をさっさと始めだした。しかし、カズヨシはこの日の初めて見たユウサイの表情をこの先忘れることはなかった。


次回は18:00ごろになります

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