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第十話 山の麓の町のとある物語 その7

一章は前振りや設定的な部分が多いのでサラッと読み流していただければ幸いです


 いつものように山を小走りで下る中、道端で倒れている人影を見つけてしまう。


「ダイジョウブデスカ?」


 日ごろから困ってる人は助けなさいとユウサイに言われているため、カズヨシは不気味に思いながらも声をかける。


 倒れこんでいる人間は眼鏡をかけたどことなく頼りないローブを着た男性であった。男性はカズヨシの問いにうめき声をあげる。


「ああ、大丈夫……ではないね……。すまないが、なにか食べるものをくれないか……?」


 男は骸骨のようにやせ細った顔でカズヨシに笑いかける。いっそその顔は不気味であった。しかし、カズヨシはカバンに入れていた水と、非常時の干し肉を差し出す。


 男は泣きながら水を飲み、口に含んだ水で肉をふやかし、かみしめる。しばらく肉をかみしめたのち、もう一度水を飲み、カズヨシを見る。


「いやあ、ありがとう。何とか死なずにすんだよ!」

「あの、ナニシテルンデスカ?」

「いや、まあ、その、何だろうね、遭難……かな」


 男はバツが悪そうに答える。


「この先の町に向かってたんだけど、途中で道がわからなくなっちゃって。一週間近く飲まず食わずでね……。君が通らなかったら私は死んでただろうね……。私はローネ。一応、魔法使いなんだ。今は見分を広めるために旅をしてる。君はなんていうの?」

「ボクハ、カズヨシ、です」

「ふむ、カズヨシ君か。しゃべり方がぎこちないみたいだけど、この辺の子じゃないのかな?。もしかして、君も旅人?」

「イエ、ボクハ、コノヤマニ、スンデマス。モトモト、チガウクニニ、イマシタガ」

「そうか。それじゃあ、その魔法のかかった兜は人種を隠すためかな?」

「ワカルンデスカ?」

「ああ。これでも魔法使いだからね。ああ、大丈夫、町の人にいちいちバラして回ろうなんて馬鹿なことしないから。そこは安心してくれて大丈夫だよ」


 男は笑ってそういうと立ち上がる。


「さて、そろそろ私は行くとしよう」


 そう言って男は山奥に向かって歩き始める。


「あの、ホウコウ、ギャクデス」

「あ、あはははは……」

「ボクニツイテキテ、くだ、さい。」


 このローネが方向音痴であることをカズヨシは重々承知し、仕方なくローネとともに町に向かうのであった。


 本来であれば一時間もかからない距離のはずなのだが、ローネのペースに合わせたせいで二時間以上もかかってしまった。


「おお、ここがエラス町かぁ……。なんか普通だね。まあ、山の麓にしては発展してるかな?。カズヨシ君はこれからどうするんだい?」

「としょかんにイキマス」

「へえ。それは殊勝な心掛けだ。知識は力だからね。僕も魔導書なんか確認しときたいし、ついていってもいいかな?」

「ハイ」


 ローネはカズヨシの返答を聞き、笑顔で後に続くのであった。


「おお!」


 図書館につき、中に入るなりローネは人が変わったように目を輝かせる。


「いいねぇ。図書館はやはりこうでなくちゃ。古臭い石壁、ほこりやクモの巣が張られた窓ガラス。かび臭い書物。妙に手入れのなされた本棚。うんうん。カズヨシ君、魔導書の場所はわかるかな?」


 カズヨシは、こっちだと指をさし、ローネを魔導書の置かれた一角へ導く。


「フムフム、なるほど。なかなかに無難なラインナップだなあ。ほかにはないのかな?」

「アトハ……」


 そう言ってカズヨシはカバンにしまい込んでいた魔導書をローネに見せる。するとローネは懐疑的な顔をしてその本をパラパラと流し読みする。


「うーん、ずいぶん難しい本を読むんだね。君、この本の内容はちゃんとわかってる?」

「イエ、ワカラナイノデ、ジショデいみをシラベナガラヨモウカト」


 昨日エリナのためにと持ち帰ったはいいもののほとんどカズヨシには本の内容がわからなかった。安易に一番薄い本を手にしたのが間違いだったのだろう。


「そうか、まあ、そうだよね。じゃあ、こっちを読むといい」


 そう言ってローネは館内で一番分厚い魔導書をカズヨシに手渡す。ずっしりとした重みに一瞬、重心を崩しそうになるほどだ。


 カズヨシはあからさまに兜の下でいやそうな顔をしながらローネをにらむ。その視線を感じたのか、ローネはカズヨシをしり目に本の説明を始める。


「こ、この本は魔法院でも正式に教科書として採用されててね。一から魔法用語の意味とかものってるから、初心者には一番お勧めだよ。それに、初心者ってみんな文章の少ない本を選びがちなんだけど、そういう本っていうのはたいてい基礎が出来上がってる人に向けて作られてるんだ。だから君にはこの本で勉強することをお勧めするよ」


 ローネの言い分を理解しながらも何となくカズヨシは納得がいかなかった。それを察したのか、ローネは近くの席でしばらくの間その本をベースにカズヨシに魔法を教えることにした。


 先ほどまでの頼りないローネとは異なり、カズヨシに勉強を教えている間の彼は、的確にカズヨシの欠点を見抜き、親切でありながらも要点をおさえて教えていく。その姿は真剣そのものであった。


 カズヨシから見て、ローネという男性は不思議な存在だった。大人のくせに頼りないし、妙に楽観主義者で先が全く見えていない。それなのに魔法の話となるとどこか人が変わったように真剣になる。こんな子供みたいな大人を見たことがない。そう思うのである。


「ローネサンハ、なんで、マホウツカイニナッタンデスカ?」

「うーん、なんでっていわれると困るなぁ。僕の場合、たまたま魔法が好きだったからたまたま魔法院に行って、その流れで魔法使いになっただけだから。君はどうして魔法を?。見たところ、魔力もなさそうだけど……」

「ロ、ローネサンニハ、カンケイアリマセン!」


 カズヨシは照れ隠しで大きな声を出し、そっぽを向く。


「あ、あれー?、怒っちゃった?」


 ローネは魔力がないことを指摘して怒らせてしまったと勘違いし、カズヨシの機嫌をとろうとする。そして、隠し持っていたあるものをカズヨシの前に出すのであった。


「そうだ、君は恩人だし、これをあげよう」


 そう言ってローネがカバンの中から小瓶を取り出す。中には透明な水のような物体が入っていた。さすがにカズヨシも気になり視線を向ける。


「ナンデスカ。これ」

「これは、まあ、なんというか、魔力水の一種、かな。飲めばもしかすると魔法が使えるようになるかもしれないよ?」


 ローネはにこにこしながら瓶を開け、カズヨシに手渡す。魔力水の相場をカズヨシは知っていた。銀貨一枚ほどである。あまり安いとは言えない。それでもわざわざお礼の品として出すには不適切なものであるように感じられた。


 それに魔力水を飲むだけで魔法が使えるようになるのであれば、世界中に魔法使いがあふれているだろうとすぐにカズヨシは思い、一気にローネが怪しい人間に思えてきた。


 それでも魔法が本当に使えるようになるかもしれない、などという淡い期待と、好奇心が判断を鈍らせ、見知らぬ男性からもらったものを口にするのであった。


「どう?。何か変わったこととかない?」

「イエ……トクニハ」

「あ、あれー?」


 ローネが不思議そうにカズヨシのかぶとの中をのぞき込む。その時であった。


 強烈な眠気がカズヨシを襲う。

「あ……レ」

「か、カズヨシ君!」


 一瞬にしてカズヨシは眠りにつき、机にもたれかかる。眠る間際、カズヨシの瞳にはローネの周りに何か、形而上の靄がかかってる様に見えた。



次回は明日の8:00ごろになります

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