26話 公園
僕は公園のベンチに座っていた。
そう、来栖を待っていた、はずだ。
正直、今僕の意思で体が動いていないから
わからないこともある。
一体僕は来栖と会って何をしようとしてるのかとか。
仕方ないので、寝てようか?
いや、流石にそれは危機感が無さすぎるか。
というか、なんでそんなこと一瞬でも思った?寝るなよ。
疲れてるんだろうか?
「あ……」
声が僕にかかる。
僕はその声のした方を見た。
__何度も言っているけど、僕の意思で僕の体は動いてないからね
もう言わないから、ホントに_
来栖がいた、僕に詰め寄りながら文句をブーブー言ってくる。
「なんでお前いきなりいなくなった、せめて事情くらい言ってからいけ!」
言われて当然の事だった。
ふと気づく。
彼女の瞳に涙が浮かんでいる。
心配という奴なんだろうか。
彼女が僕より身長が高く、見下ろされるように色々言われるんだけど安心感がある。
なのに、僕は
手を後ろに回していた。
その手に鉄パイプを隠しもって。
得物を横薙ぎする。
来栖の反応はとても早く、すぐに飛びのいて
僕に構えた。
無理だろ僕が来栖に勝つのは、と思う。
でも、僕は超能力を使った。
普段やるよりも強力で出が速いものを。
公園の砂場から、砂をまとめて浮かばせ、ひとかたまりにして
それを勢いよく来栖に飛ばした。
バコ、来栖は簡単に避ける。
つまり、バコというのは砂塊が地面とぶつかって割れた音だ。
そうか、と気づく。
僕とは違う僕のほうが力が強いのか。
……なんとなく、扉に向かったことを思い出した。
そういえば二回目の頭痛は初回の半分程度だった、あれは僕じゃない奴と痛みを分け合っていたのだろう。
そんな風に力も分け合っているかもしれない。
という思考をしていたら僕の体は勝手に来栖に鉄パイプを構えて走っていた。
「おい!お前、いい加減にしろ!殺す気か!?」
来栖の叫びを無視、そして距離を詰め。カウンター気味に彼女の右ストレートが飛んできた。
だがそれを避けつつ僕はスライディング気味に滑って、来栖の後ろを取る。
そのまま来栖の背中に鉄パイプでの一撃を入れる。
ちょっと待てなんだ僕は、なにこの動き?こんなんできるの僕?
来栖はゴホゴホと咳込みながら後ろ回し蹴りで反撃
ミニスカなのにパンチラさせないのすごいな、とどこかずれた音を思う。
僕は鉄パイプで受け・・・・・・たのに威力が高すぎて吹き飛ばされた。
僕の体が宙を舞い、落ちる転がる。
痛さを感じない、というか受け身をうまくとっててダメージを受けていない。
待て、僕はだんだん不安になってきた。
「なんだお前……」そう言いたくなったが口を動かせない。
このままじゃ、来栖は負けちゃうんじゃなかろうか?
そしたらきっと、僕の体は動いて、来栖にひどいことをするだろう。
ダメだ。そんなの。
「……望んでるくせに」
ぼそりと、僕の体がそういった。
違う、違う!僕は……
気付けば、周りが真っ暗になっていた。
音だけが遠くから聞こえてくる。
……真っ暗というのは、自分の体だけは色鮮やかに見えているので少し語弊があるのだけどまあいいや……
遠くから、鉄パイプの音や来栖の文句が響いていた。
……あれ?体が自分の意思で動く、歩ける。
つまりここは
「僕の、心か」
「そうだ」
僕じゃない僕に返答された。
姿かたちは完全に僕だけど、意思や思考、感情を共有してない。
つまるところ僕はこいつを否定する。
「ふざけんな!」
こいつに叫ぶ。
飛びかかった。
腹を簡単に蹴り飛ばされた。
痛い、心の中なのに内臓にダメージがある。
「何で痛いんだ?みてえな顔してんな、ま、僕は君が痛くてもどうでもいいんだけど」
こいつは、いつかのナイフをどこからか取り出した。
遠くから、来栖の叫びが響いてる。
こいつは外で彼女と戦っているんだろう。
こいつは下手をすると来栖を殺す可能性がある。
先に殺してやる。
僕がそう思うと、右手にナイフが出現した。
「ほら、結局お前も殺したいんだ」
「うるさい」あまり長話はしたくなかった。
武器を構え、突進。
こいつも、走ってくる。
こいつはナイフを振ろうとした
それが振り下ろされる前に、相手にタックルをぶちかまし
押し倒す。
「消えろっ!消えろお!消えろっ!」
ナイフをこいつの首に突き刺そうとするけどこいつは必死で僕の手を
止めやがる。
その手を離せ、その手がなければ殺せるんだ。
ナイフは通るんだ。
「ほら、どれだけ取り繕ってもお前はただの快楽殺人者だ」
思わず、動きを止めてしまった。
大きな隙ができ、今度は押し倒される。
僕のすぐ近くでこいつは笑顔を見せてべらべら一方的にしゃべりやがる。
「……お前は、皆と一緒にいたいから無意識に自分を偽ってたんだ」
「ま、おまえには無理だったわけだ、ホントの自分を否定し続けて
それで分裂したんだ」
こいつをどうにかしよう、超能力が使いたかったが
発動しない。心の中だからか?
ナイフだけで、こいつ相手にどうしろっていうんだ。
僕みたいに弱い奴が。
「今から僕はお前を殺す、お前はいなくなり神浦リョウトは本来の人格を取り戻す」
本来……?
「殺しをためらわない、嬉々として殺すそんな奴になるんだ」
本来、か。
つまり僕は神浦リョウトではないと?
違う、僕はリョウトだ。
じゃあ、こいつはいったいなんだ。
こいつが本来の僕なのか?
違う、こいつがいるのは僕がいるからだ
僕がいることで生まれた奴が本来の神浦リョウトとは言い難い。
そもそも、本来ってなんだ
人は変わっていくのが常。
本来に戻る必要がない奴だっている。
そう思った瞬間
誰が神浦リョウトなのか気づいた。
遠くから、来栖の声が聞こえていた。
戦っているけど、説得しようとしてる。
じゃあ、僕も頑張らなきゃ。
声を絞り出す。
「お前も、僕なんだな」
僕の手からナイフがドロドロになって零れ落ちていく。
「きっと、ダメなのは僕はお前を否定し続けたからだ」
存在そのものを無かったものにしようとしたからだ。
たぶん、消したいというのは間違がった思いじゃない
弱虫、臆病、怒りっぽい、人間不信
いろいろな消したい「自分」がみんないるんだろう。
ただ、僕はその自分を「他人」として認識しようとした
自分から逃げて、向き合おうとしなかった。
僕の手から、ドロドロの流動物とかしたナイフは微塵も残っていなかった。
僕は、「僕」と話をすることにした。
さっきは一方的に話されたので、今度はこっちがそうした。
「僕は、おまえを僕と認める」
「そして、僕のこともお前のことも神浦リョウトと認める」
「でも、お前の行動を絶対に許さない」
「僕はお前を認めたうえで、向き合う」
僕は、もう一人の僕を突き飛ばした。
この僕の右手に、ナイフが出るように鉄パイプが出現する。
もう一人のほうにはナイフ。
お互い、相手に構える。
お互いにお互いへ走って、
武器での攻撃。
ナイフと鉄パイプがぶつかり合う。
僕の鉄パイプが、相手のナイフを弾き飛ばした瞬間
急に世界がカラフルになる、
さっきの公園に戻ってきたようだ。
なのに、どうしてかわからないけど
体が自分の意思で動かない。
____ふ ざ け ん な ____
僕の声が頭で響く。
膝をついた来栖に、僕が鉄パイプを振り下ろそうとする瞬間だった。
やめろ!
叫ぼうとするが、代わりに僕の口から勝ち誇った笑い
が漏れる。
もう一人の僕の意地だと思う、これは。
自分を貫き通そうとする。
クソ、早く体の主導権を握らないと。
全力で体を止めようとするが
それでも僕の体は鉄パイプの威力を上げようと振りかぶっていく。
抵抗しても、ゆっくりと振りかぶっていき。
衝撃がわき腹から走った。
痺れと痛みの合わせ技。
意識が急激に遠のく。
ちらりと横目にキョウヤの姿が見えた。
スタンガンを持ってた。
「ごめん、俺……」
キョウヤの声が暗闇の中に響く。
「お前がいろいろヤバい奴って知ってたんだ」
そうなんだ。
「俺、もっとお前とちゃんと向き合うべきだったんだ、もっと早くに」
べつにいいよ。
「もう一度言うな、ごめん」
いいってば。
キョウヤは良い奴だと思う。
でも、あんまり自分を責める必要ないんじゃないかな。
そんなこと思いながら、視界だけでなく意識も失っていく。
起きたら、どうなっていようと受け入れるしかないなって思う。




