あたし、千尋様が好きだ……!
改めてそう言われて、あたしは自分が情けなくなってしまった。
ごめんなさい、千尋様。
あたし本当は、千尋様の気持ちも自分の気持ちも、信じきれていなかったの。
許嫁を解消された途端、里から追い出されて。やっと生活できるようになったところに千尋様が来た時は、正直なんで今更、って思ったんだよ。
足しげく通ってくれてる時も、千尋様はあたしに罪悪感を感じているだけなんじゃないかって、そう思ってた。
あたしのことが好きで通ってるんじゃない、勘違いしちゃいけない。心のどこかでブレーキをかけてた。
だからこそ、妖狐一族と自ら縁を切ったとき、これでおしまいだと覚悟したよ。
だって千尋様は一族の大事な大事な跡とりだもの。千尋様だって一族のことをものすごく大切に思ってる。あんなにはっきりと決別してしまえば、千尋様と会えなくなるのはあまりにも当然のことだ。
そんな風にあたしは勝手に諦めきってたっていうのに。
千尋様はあの怖い怖い御屋形様にたてついて、監禁までされても諦めずに、ずっと一人で頑張ってくれてたなんて。
千尋様を信じなかったあたし、本当にバカだ。
「ごめんなさい……!」
「ま、真白? なぜ泣くんだ、妖気は消した筈だが……!」
あたふたと自分の妖気を確認する千尋様の姿に、あたしは嬉しくて、泣きながら少しだけ笑ってしまった。これまで泣きまくってきたから、あたしが泣くと恐怖ゆえの涙かと思ってしまうんだろう。
「妖気じゃなくて……千尋様の気持ちが嬉しくて、泣いてるんです」
「笑っ……」
千尋様の白い頬に、ほんのり赤みがさしている。この美しい人が、一族の目を欺いてまであたしに逢いに来てくれるだなんて、なんと素晴らしいことか。
ああ、あたし……千尋様が、好きだ……!
「逢いに来てくれて嬉しい……ありがとうございます、千尋様」
「真白……!」
千尋様の手をきゅっと握り返すと、千尋様は驚いたように目を見開く。そして、嬉しそうに頬を染めて微笑んでくれた。
「良かった。喜んでくれるのか、真白」
「はい……はい、千尋様……! あたし、千尋様のことが大好きです」
「……!」
息をのんだ千尋様が、あたしをひしとかき抱く。
「真白……、真白……!」
その力は驚くほど強い。あたしは少しだけ迷った後、千尋様の背に腕をまわした。腕に少し力を入れてみたら、千尋様の体がわずかに強ばる。
顔をあげて千尋様を見上げたら、千尋様の麗しい顔があたしを見下ろしていた。
「真白……愛している」
千尋様の熱を帯びた声に、心臓の高鳴りをおさえられない。
「どんな障壁があろうとも、生涯真白の傍で、ともに在りたい」




