手短にお願いしますよ
「それで? 雁首そろえて何の御用ですか?」
思いのほかすんなりと応接室に通されて、あたし達三人は今、雅様と対峙している。
「まさか貴方まで一緒とは思いませんでしたよ、妖狐族はこの娘とは関係を絶ったのではなかったのですか?」
雅様は口元に微笑を浮かべたまま、千尋様を興味深げに見ている。千尋様は、苦い表情であたしを見て……そのまま、雅様に視線を戻した。
「真白との許嫁の誓約を解消したことも、一族から追放したことも、後悔しているのだ。今は、少しでも彼女の力になりたいと思っている」
「おやおや、妖狐族は反省などしない種族かと思っていましたが……これは興味深い」
意地悪な笑みを浮かべる雅様に、千尋様はなにも言い返さない。その様子を眺めていた雅様は、フッと空気を緩める。
「まあ、いいでしょう。面白いものを見せて貰ったお礼です。話を聞きましょう」
「あ、ありがとうございます!」
なんだか千尋様には居心地の悪い思いをさせてしまって申し訳なかったけれど、とりあえず話を聞いてもらえる流れになってよかった。
「それで、用件は? 手短にお願いしますよ。……まあ、概ね想像はつきますが」
長い足を優雅に組んで、雅様が笑う。その目は、面白そうに絢香さんを見て……次いで、私に意味ありげな流し目を寄越す。
「さきほど彼女にもはっきりと言った筈なのですが……私はもう、真奈美のいない生活など考えられません。真奈美を力尽くで連れ帰るというのであれば、私は全力をもって阻止します」
「力尽くで、なんて考えてねーよ」
絢香さんがそう即答してくれて、あたしは内心ホッとした。ヤンデレフラグがたっちゃってるっぽい雅様は、取り扱い厳重注意な気がするもんね。
「ただ……真奈美に、会いたいとは思ってる」
急にしおらしくなった絢香さんの声に驚いて、あたしは絢香さんを二度見した。
見れば細い肩は小刻みに震え、悲しそうに寄せられた眉もきゅっと閉じられた唇も、切なさをこらえているようで……なんとも儚げだ。
いきなりどうした、絢香さん。そう思ったのに。
「困りましたね……真奈美と似た顔で、そんな悲しい顔をしないでください」
雅様が一瞬で釣れた。
「真奈美のやつ……俺にも、家族にも、なにも言わずに出ていっちまったんだ。わけ、わからなくて」
女優か。
雅様が心配そうな顔してるじゃん。ていうか、千尋様なんか目がまんまるになっちゃってるじゃん。
「あいつがいつでも戻ってこれるようにって……俺、あいつのかわりにこんな格好までして学園に通ってたけど、全然帰ってこねーし……」
語尾を小さくし、ぐすっと鼻をならす芸の細かさ。絢香さん、すごいな。




