本物の絢香を探して欲しい
会話の八割「ふざけんな」「好きじゃねえ」「キモい」「ついて来んな」系ですよ、それでもぞろぞろ男がついてくる。しかも学園の中でも妖力が高い、イケメンエリートばっかり。
絢香さんってある意味凄い。
学園ではぶっちゃけ、時々「頼む、もうダメ、ちょっとだけモフらせて」と、何に傷ついているか不明ながらも泣きながら縋ってくるダメ男=絢香さんに尻尾を触らせてあげるだけの関係だった。
いや、なんかね、ゲームの真白ちゃんの大ファンだったんだって。
大人しくって真っ白で、いつもビクビクしてるけど健気な姿が可愛かったらしい。
うん、あたしも可愛いと思ってた、ケモ耳と尻尾はやっぱ最高だよね、と意気投合したんだから、それくらいのサービスはやむをえまい。
そんな学園での日々をうっすら思い出しながら、あたしはとりあえず目の前の美少女を慰めた。
「ほら、もう泣き止みなって。尻尾もふもふさせてあげるから」
あたしは尻尾をふわりと出して、絢香さんの目の前でゆらゆらと振って見せる。妖気をうまく調節することで、妖じゃない人にもこうして本来の姿を見せることができるんだよね。
ま、妖気の調節は若干面倒くさいけど、これくらいはサービスしてもいい。
真っ白な尻尾を目にした絢香さんは、とたんに目が釘付けになる。
うーむ、まさに猫じゃらしを前にした仔猫。ゲームの中の真白ちゃんと、その真っ白なふわふわ尻尾が大好きだったこ奴は、この尻尾の魔力に逆らえた試しがないのだ。
震える手で尻尾にモジモジと触れると、途端に蕩けた至福の表情で尻尾をきゅうっと抱きしめた。
ちぇっ、ホントに可愛いな。
ああもう、真面目にその姿形に感謝して欲しい! ふつうに男の人だったらその行動、多分キモいだけなんだからね!
あたしの捨て身の癒しによってようやく落ち着きを取り戻したらしい絢香さんは、コホンとひとつ咳払いすると、やっと本来の要件を切り出してきた。
「本物の絢香を探して欲しい」
「え?」
「そもそもあいつが逃げ出したから、俺がこんな目にあってるんだ、探し出して責任とって貰う」
なるほど。
「でも、向こうだって嫌だったから逃げたんでしょ?」
「あいつも転生者だったんだ。このゲームの熱狂的なファンでさ。二次元だから萌えたの! 恥ずかしすぎて死ぬ……! って言ってたし、何とかなるっしょ」
「……」
「少なくとも男の俺よりはマシだって!」
「うーん」
「なあ頼むよ、俺もう限界なんだよ!」
まあ、でも確かに恥ずかしすぎて死ぬ、っていう理由で逃げただけなら、何とかなるのかなあ。