蛇神さまの軽い尋問
「貴女はたしか、妖狐一族から追われた哀れなお嬢さんではないですか。どうしてここに?」
さすがに妖力が高いお人は違う、あっという間に見抜かれてしまっていた。
心臓が急激にドキドキと早鐘をうつ。どこまで話すべきだろうか。ここにいる以上、理由なくって訳にもいかないし……さりとて、正直に話すわけにもいかないし。
いやいや、すでに妹さん……真奈美さんにはかなり正直に話してしまっている。
ここはもう、腹をくくって言ってしまったほうがむしろマシなのかも。
一瞬のうちに脳みそフル回転で考えた結果、私は結局、ありのまま話すことにした。
「実は絢香さんに、家出した自分とそっくりな妹さんを探して欲しいと頼まれておりまして」
自分でもかなり気合いを入れた直球でお答えしてみた。
「絢香……ああ、あの女装の。真奈美とそっくりな顔で、男を罵倒しながら侍らせている奇妙な方ですので以前から気になってはいたのですが」
そういう理解か。絢香さん、哀れ……。
「そういえば、貴女はあの方と懇意にしていたようですね。それも不思議でしたが」
よくご存じで。しかし迂闊に話すといらないことまで言ってしまいそうだ。細心の注意をはらいつつ、言っても問題なさそうなことだけを言の葉にのせるようにしよう。
「ええ。それで、私は学園からも追放されていて時間があったもので、それとなく絢香さんの妹さんを探しておりまして。先日、こちらのお宅の窓から絢香さんにそっくりな人が偶然見えたもので」
「偶然? 学園からも妖狐の里からもかなり離れたこの場所に、偶然? にわかには信じがたいですね」
にっこりと微笑んでいるけれど、目が笑ってない。
雅様って実は、かなり怖いお方なんじゃないの? クダちゃんも本能的に怖いのか、毛が逆立ってもっふもふになっている。
うんうん、怖いよね。
「絢香さんから、妹さんは雅様が……その」
妹さんは雅様が好き、と言いかけて、はっとして妹さんを見る。
他人がうっかり言ってしまっていい情報じゃないんじゃない? 私だって千尋様本人に、この思いを暴露されたら軽く羞恥で死ねる。
案の定、妹さんは真っ赤な顔でうつむいていた。
「ええと、妹さんが雅様に興味を持っていたようだ、って聞いたもので」
かなりオブラートに包んだぞ。これなら文句はないだろう。そして、情報の出所は一応ちゃんと告げたし。
「なるほど。出会った当初、真奈美もそんなことを言っていましたね。どこで見初めてくれたのかは結局、教えてくれませんけれど」
ふふ、と甘い笑みを見せて、雅様は真奈美さんを見下ろす。きっと、出会った時のことを思い出しているのだろう。




