幸せ……なのかな……
妹さんは、すぐには答えなかった。
うつむいて、わずかに考えた後、ゆっくりとこう口にする。
「幸せ……なのかな……」
ちょっと、ドキリとした。大好きな推しに会えたからって、ただそれだけで幸せかって言われると、私だって複雑だ。妹さんに向けて発した質問は、自分自身だって答えにくいものだったかも知れない。
「いや、すごく嬉しいのよ? 大好きな雅様といつも一緒にいられて」
誤解されると思ったのか、両手を忙しなく「違う、違う」と言いたげに振って、あせあせと言葉をつなぐ妹さん。確かに、コミュニケーションをとるのが苦手そうではある。
「雅様はいつだって優しいし、お屋敷の人たちもみんな親切にしてくれるの」
「そうか、大切にされているんだね」
「うん……お屋敷からはでちゃダメって言われてるけど、他に行きたいところもないし、別に会いたいヒトもいないし」
あ、やっぱお屋敷からは出ないように言われているわけね。雅様はどういうつもりで彼女を匿っているのかな。
「ただ、このままでいいのかなって、この頃よく考えるようになってて……それに、ワタル君が私のせいでそんなに困ってるだなんて、知らなかったから、私……」
白いドレスのレース部分を所在なさげに弄りながら、妹さんが困ったように眉根を寄せる。
「このままでいいのか、だなどと異なことを言うものですね」
突如、ヒヤリと冷たい声が割って入った。
「真奈美、こんなに大切にしているというのに、何が貴女を悩ませているのですか?」
「雅様……」
真奈美、っていうのが妹さんの本名なのかな。雅様は音もなく部屋に入ってくると、そのまま真奈美さんの傍に立って、彼女の髪を愛しそうに撫でる。
「可哀想に、貴女が迷う必要などないのですよ。……貴女を惑わせたのは、その管狐ですか?」
雅様がゆっくりと私を見た瞬間、部屋の温度が一気に下がったかのように、背筋が冷えた。蛇に睨まれたカエルみたいって、きっとこういうことをいうんだ。
だって、金縛りに遭ったみたいに体が動かない。
「性悪な狐など、滅しましょう」
薄く嗤った雅様の気が、一瞬にして膨れ上がる。その気はまるで、顎を大きく開いた蛇のように、一瞬にして私に襲いかかる。
とっさにできる限りの防御を巡らせたけれど、私の目の前で、雅様の力は急に霧散して消えてしまった。
「……?」
不思議に思って顔をあげたら、雅様がニンマリと怖い笑顔を浮かべていた。
「下賤なモノが紛れ込んだかと思えば……これは、面白い」




