今、幸せなの?
「え、ま、窓開いてなかったよね!? うそ、ワープした!?」
混乱する妹さんに、私は慌てて話しかける。
「こんにちは、初めまして」
「ひえっ!?」
妹さんが大きく一歩、飛び退いた。いきなり話し始めたクダちゃんを、怖いものでも見るような目でおどおどと見ている。
「驚かないで、少し話したいことがあるだけなの」
「えええ~~? うそぉ、めっちゃしゃべってるぅ」
涙目でもう一歩、妹さんの足が後ろに下がるものだから、私は慌てて言葉を継いだ。あんまり怖がらせると逃げられちゃいそう。
「私、真白よ。あのゲームをやっていたなら分かるでしょう?」
「ゲーム……」
その言葉に、妹さんの体が固まった。そしてクダちゃんをじっと凝視する。
「ゲームってまさか」
「そう、私もこのゲームに紛れ込んじゃったの。貴女もそうだって聞いたから、話したいことがあって」
「そんな人が、他にもいたなんて……!」
目をまん丸にしている妹さんからは、とても嬉しそうな声が響いた。そうよね、私も絢香さんに出会えたときって本当に嬉しかったもの。ゲームの世界に紛れ込んでしまったと理解しているからこそ、前世の記憶を持つ人との出会いはなにものにも代えがたい。
「私はこの世界では、妖狐の真白になってたの。この子は使い魔の管狐で、クダちゃん」
「ふふ、可愛い」
「実はこの世界での貴女の……お兄さんから、お話を聞いたんだけど」
話し始めて、いきなり呼称に困ってしまった。『絢香さん』って本当は妹さんの名前だものね。呼び方が難しいなぁ。
なんて困っていたら、目の前の妹さんの顔が急に曇った。
「ワタル君、怒ってるよね……私、逃げちゃったから」
「ワタル君ってお兄さんの名前?」
「え、そうですけど……あれ? お知り合いなんですよね?」
「そうだけど、私ずっと『絢香さん』って呼んでたから」
絢香さんとの出会いと現状をざっくりと説明すると、妹さんの顔はみるみる青くなった。
「うそ……じゃあ、私の代わりにワタル君がヒロインやってるの? 女装して?」
「そうそう、雅様に聞いてなかった? 言動は乱暴なんだけど、なぜか攻略対象者はベタ惚れなのよ」
「雅様はなにも……そんなことになっていたなんて」
口元に手を当て目をまん丸にして話を聞く妹さんは、やっぱり絢香さんよりもさらに可憐だ。それにしても雅様、学園でのことを何も話していないのね。
さっき妹さん、窓も開けちゃいけないって呟いてたし、やっぱり外界から隔離されているんだろうか。
心配になって、つい尋ねる。
「ねえ、このお屋敷にいるのは自分の意思なの? ……今、幸せ?」




