クダちゃん、行こう!
「千尋様、絢香さんの妹らしき人を見たのって、どの辺ですか?」
できればお屋敷の中をあれこれ動くのは最低限にしたい。妹さんに会えるまでの距離や時間は、短ければ短いほどいいと思うもの。妹さんがいる可能性が高い部屋を特定できれば、屋敷の中をうろつく時間を短縮できて、危険性はぐっと減ると思うんだよね。
「たしか、屋敷の三階の……あの角の部屋だったと思うが」
千尋様が指差す先には、屋敷の裏手にある目立たない角部屋の窓が見える。その部屋に限らずどの窓もぴっちりと閉じられていて、ガードがかたい印象は否めない。
屋敷はそれだけでひとつの結界だ。
雅様のお屋敷ほどであれば、無理に屋敷に入った時点でなんらかの違和感を持たれるのは仕方がない。無害な小物……なんなら小鳥とか野良猫レベルの、脅威を感じないで存在であることをアピールするしかないと思うんだよね。
そういえば、招かれたモノには結界の効力が半減するって聞いたことがある。
あ〜あ、屋敷の住人に招き入れてさえ貰えれば、ほんと苦もなく入れるのにな。そんな都合のいいこと、あるわけないか。
「……あ」
いやいやいや、そうだよ! 招き入れて貰えばいいんだ!
妹さんにうまく会えれば、もしかしたら招き入れて貰えるかも知れないもの。
「クダちゃん、行こう!」
「きゅー!」
「真白、ムリをするなよ」
心配げな千尋様に「大丈夫です!」と請け負って、私はクダちゃんに意識を乗せる。やる気に満ち満ちたクダちゃんが、びゅんっと勢いよく飛び上がった。
ぐんぐんぐんぐん上昇して、あっという間に千尋様が言っていた三階裏手の角部屋までたどり着く。
「クダちゃん、窓に近づいて。まだ窓から入っちゃダメよ」
この部屋近くに、妹さんがいてくれるといいんだけど。そう期待しながらゆっくりと窓に近づくと、ピカピカに磨き上げられた窓から豪奢なお屋敷の中が見えてきた。
うわ……素敵。完全に和風だった千尋様のお屋敷とは違って、洋風モダンなお屋敷だわ。
とてもシックで落ち着いた雰囲気のお部屋。クラシックローズの壁は緻密なオーナメント柄、シャンデリアはさほど華々しくはなくて、優しい陰影で室内を照らしている。椅子やテーブル、ベッドなどの家具類もアンティーク調で全体的にとってもエレガント。
この世界って大正時代くらいのイメージだから、町並みや家、服装なんかも基本は和風なのよね。そこに、ところどころこうして洋風でモダンなものが混ざっているの。
それが余計に耽美なのよねぇ。
なんてついうっとり見とれていたら、お部屋の重厚な扉がゆっくりと開いた。




