頑張ろうね、クダちゃん
本当にちゃんと反省してくれたらしい絢香さんも交えて、千尋様、私の三人で真剣に話し合った結果、まずはこっそりと妹さんにコンタクトをとれないか、試みることになった。
二人が見守ってくれる中、私は胸の前で手を組み、精神を集中する。
いつもと同じ、周りの音が徐々に掻き消えて、精神が研ぎ澄まされていく。妖狐の中では落ちこぼれの私でも使える、数少ない術だ。目の前が白く穏やかな光に包まれたその時。
「きゅー!」
ふんわりもふもふの私の使い魔、管狐のクダちゃんが姿を現した。
ああ、いつみても可愛いな。ハムスターみたいにまんまるで黒いつぶらな瞳に愛らしい鳴き声。長細―い胴を精一杯に伸ばして私にすり寄ろうする、いつもの甘える仕草がこれまた可愛い。
モフモフモフモフと撫でまわしていたら、千尋様がわずかに眉を顰める。
「むぅ……愛ですぎではないか?」
確かに妖狐一族の中では、あまり使い魔に甘くし過ぎないという風習があるのは確かだけれど、この子は落ちこぼれの私に尽くしてくれる優しい子だ。私だって最大限、優しくしてあげたい。
ただそれはそれとして、今日は早急にやってもらわねばならないことがある。
「クダちゃん」
真剣な声で名を呼べばクダちゃんもピシッと背筋を伸ばす。
「あのね。あのお屋敷の中にね、この絢香さんにそっくりな女の人がいるはずなの」
そう伝えると、クダちゃんは一生懸命に絢香さんを見つめる。
霊力で人を特定するのは得意なようなのだけれど、姿形で人間を特定するのは、クダちゃんには難しいみたいだから、クダちゃんだって一生懸命なんだろう。
「その人以外には姿を見られてはダメ。気配もちゃんと絶ってね」
コクンと頷くクダちゃんの目は、決意に満ちている。ほんと可愛い。
「私の意識を乗せていってもらうから、できれば会話しようと思ってるけど……もし無理なら、この文を渡してあげて欲しいの」
「きゅーっ」
任せとけ、とばかりに、クダちゃんが力強く鳴く。
「頑張ろうね、クダちゃん」
「きゅ!」
やる気満々のクダちゃんを見ていたら、私もうまくやれる気がしてきた。この子を危ない目にあわせないように、私も頑張らなくっちゃ。
「真白、ほんとうに大丈夫か。なんなら俺が行くというのに」
「千尋様の妖力は強すぎるんですってば。私の妖力を隠す方に集中してください」
ここは私のヘナチョコ妖力の方が都合がいい。妹さんに会えたなら、いったい何を話そうか。幸せに暮らせているならいい。
できることなら、雅様と一戦交えるような、恐ろしいことにはなって欲しくないもの。




