お断りします
「え、いや、だってお前」
必死に話しかけながらも自分の記憶を検索していたらしい絢香さん。でも、残念ながらご希望の記憶には辿り着かなかったらしい。
当たり前だ。
妹さんを探すって依頼しかしてないんだから。
「真白がいいのならば帰ろうか、何もわざわざ危ない目にあうこともあるまい。さあ、真白の腕を離して貰おうか」
千尋様から手刀を落とされても頑として私の腕を離そうとしない。絢香さんなりに必死らしい。
そんな様子を見て、千尋様は「往生際が悪い」とボヤきつつ、絢香さんの指を一本一本剥がしはじめた。
「待て待て、待てって!だって雅の屋敷の中に居るだなんて思わねーし! 俺一人でって無理ゲーだろ」
「その無理ゲーを人に押し付けようとしてたの誰よ」
ぐっ……と言葉に詰まった絢香さん。
ふーんだ、今頃分かったか。自分の言いっぷりがどんなに鬼畜だったか。
「分かった! じゃあさ、こうしよう。新たに依頼するから、それでいいだろ? 連れ戻すのにもちゃんと別料金はらう!」
これでどうだ! と息巻く絢香さんに、心底がっかりした。
「お断りします」
「へ?」
「依頼は受けない。勝手にやって」
断られるだなんて、つゆほども思ってなかったんだろうね。絢香さんはポカンとした顔であたしを見た。
驚きで手の力が緩んだから、すかさず絢香さんの腕をふりほどく。
「ま、待てって。なんだよ、なんでだよ急に。今まで助け合ってきたんじゃねーかよ」
叱られた仔犬みたいに、傷ついたような顔をしている。さすが顔は美少女、凶悪なくらいに可憐だ。
でも、本当にわかっていないのね。
「だからじゃない。今まで助け合ってきたからさ、妹さんだって一生懸命に探したし、連れ戻すのにも協力しようとしたんじゃない」
「お、おう」
「本当はさ、妹さんは好きで雅様の傍にいるのかも知れないって、思わないでもないんだよ? だって、推しだったんでしょ?」
「……」
「でも、絢香さんの窮状だって分かるから。せめて話し合うだけでもできないかなって、そう思ってたんだよ」
「真白……おまえ」
「あんな雑に押しかけたら、話し合うどころじゃないよ。下手すりゃ、妹さんがたとえ逃げたいと思ってたって、うまく隠されちゃう可能性のほうが高いんだよ? バカじゃないの?」
だんだんと絢香さんの顔が下を向いていく。さすがに反省したのだろうか。
絢香さんのことも考えず、先に逃げたのは妹さんだけどさ、やっぱり妹さんの今の気持ちだって少しは考えたいところじゃない?
無理やり、ってのはあたしだって嫌なんだもん。
「……ごめん」
初めて、絢香さんの声がしんみりとした。




