この人、あたしと同じ転生者だ。
「絢香、またねー!」
そしてすかさずあたしの方を振り返って、堀田君はなぜか可愛くウインクする。
「君、真白ちゃんでしょ? 千尋には今の内緒にしてね」
ああそっか、そうだよね。千尋様とは絢香さんを取り合うライバルなんだもんね。それは告げ口されたくないだろう。
コクコクと頷いていたら、階段の上から「ましろ……?」と愛らしい声がする。見上げたら、絢香さんが角からひょっこりと顔を出していた。
絢香さん、走り去ってなかったのか。
「ましろって、あの、真白ちゃん!?」
しかもあたし目がけて、すごい勢いで駆け下りてきた。
ていうか『あの、真白ちゃん』って、どういう意味なんだろう。少なくともこれまで絢香さんとはからんだことなかったと思うんだけど。
「うわあ、うわあ、マジかわいい! ほんとに琥珀みたいな瞳!」
ずいっと顔が近づいてきて、すっごい至近距離でマジマジと見つめられる。
絢香さんの頬はなぜかピンクに色づいて、大きな瞳はウルウル、「かわいい、かわいい」を連発している。ぶっちゃけかわいいと連呼しているアナタの方が、100倍可愛いと教えてあげたいくらいだった。
「なあ耳は? 尻尾は? あー、学園では出さねえのか、勿体ねえ」
絢香さんが興奮のあまりそこまで口走ったのを聞いた時、さすがにあたしにもピンと来た。
この人、あたしと同じ転生者だ。
しかもやっぱり、ヒロインにはあたしの狐耳やらもっふもふのシッポは見えていないらしい。
そう確信したあたしは、その後言葉巧みに空き教室に連れ込んで、根掘り葉掘り彼女の事情を聞き出きだした。案の定というかなんというか……絢香さんは転生者で、しかも前世も今も(!)男だというではないか。
なるほど、あの口の悪さも納得だ。
なんとこの世界では本物の絢香さんの、双子のお兄さんなんだって。
なのになぜ本物の絢香さんでなく、お兄さんがここに来ているのかと問えば、「お前ってセカンドやった?」と問い返された。
知らない。何それ。
少なくとも、あたしの記憶にはセカンドなんて発売された記憶すらない。
そう答えると「あー、じゃ理由は知らねえ方がいい。面倒な事になる」と言われてそれっきり。
「男をオトす趣味はねえ」なんて言いつつ、なぜか絢香さんがゲームとは全く違う対応でそれでも着実にハーレムを築き上げていくのを、あたしは遠目に見ていた。
もしかしてあれがセカンドの攻略方法だとしたら、相当方向性が変わっている。ちょっと耽美で儚げな美しい世界観は崩壊し、ほぼ怒声と罵倒なんですが、これいかに。