ふざけんじゃないわよ!
これまで頑なに千尋様の介入を拒んできた絢香さんとは思えない物言いだけれど、ここは黙って受け入れよう。
なんてったって、雅様のお屋敷に乗り込むのであれば、千尋様が味方についてくれるのは正直言ってありがたいことなんだもの。
「さ、行ってこい!」
話の途中だと言うのに、なんの脈絡もなく絢香さんにいきなり肩を押されて、ふらっと電信柱の陰から飛び出てしまった私は、慌てて素早く元の位置に戻る。
危なかった! いきなり雅様に見つかってしまったら、どうしてくれるのよ!
「なにすんのよ、急に!」
「なんだよ、さっさと行って、あの白蛇ヤローに交渉して来いって」
「ふざけんじゃないわよ! まだなんの作戦も立ててないじゃないの!」
「はあ? 作戦だぁ? なんかあったらおまえの千尋様が助けてくれるって。心配すんな、行って来い!」
呆れた……!
丸投げの上に、なんかあったら千尋様になんとかして貰おうって思ってんのか。
雑すぎる上に無責任過ぎるだろう。そもそも絢香さんのためにやってるっていうのに。
ふつふつと、怒りが込み上げてきた。
「……帰る」
「はあ!?」
驚きの声をあげる絢香さんを置いて、私は千尋様のいる塀の方へスタスタと歩く。ぶっちゃけもう付き合ってらんない。
「ま、待てって。なんだよ急に!」
慌てて絢香さんが追ってくるけれど、知るもんか。
「帰りましょう、千尋様」
「な、なんだ、どうした真白。怒っているのか?」
困惑した様子で耳をヘニョっと下げる千尋様に「怒ってます、絢香さんに」と告げると、「なんだ、そうか」と明らかに安心した顔でお耳がぴょこんと起き上がる。
くっ……癒される。
しかし、私は……っ、これくらいで怒りは解かないぞ!
ただ、千尋様というイケメンの愛らしさによって、若干歩みは鈍ってしまったらしい。絢香さんにがっちりと腕を掴まれてしまった。
「真白! なに怒ってんだよ! わけわかんねえ」
わけわかんねえとか言ってる時点でもう、許し難い。いらついたけれど、とりあえず言うべきことだけは言わなくちゃいけないよね。
はあ、とひとつため息をついて私は絢香さんを軽くにらんだ。
「全部丸投げとか信じらんない。そもそも依頼は『妹さんを見つける』だったんだもの。依頼は完遂してるんだから、よく考えたらもう私の仕事終わってるし」
そうよ、絢香さんったら私を当然のように危ない目に逢わせようとしてるけど、冗談じゃないっての。
「なんだ! そうか、依頼は終わっているのか!」
ぱあっと千尋様の顔が明るく輝く。逆に絢香さんは、あからさまにうろたえた。




