狐と美女の化かし合い
「事情は理解した。……手を貸そう」
「ありがとな、でもやめた方がいい」
真剣な面持ちでそう申し出た千尋様に、絢香さんは困ったように微笑んでみせた。
「言っただろ、お前の一族が出張ってきちゃ困るって。お前が蛇神の屋敷なんかに乗り込んで雅と一悶着あった日にゃ、絶対お前んとこの一族が黙っちゃいねえだろ」
「っ……それは、そうだが。しかし、 妖気を完璧に消せば」
千尋様の言に、絢香さんは胡乱げな視線を送る。どうやら、納得いかないらしい。
「 ……例えば、お前の屋敷に妖気を完璧に消した賊が入ったとして、気づかないモンなのか?」
「そんなわけがあるまい。セキュリティは万全だ」
「……蛇神様のお宅も、そうなんじゃねーの」
半目の絢香さんに呆れたように言われて、さすがに千尋様も自分の発言に矛盾を感じたらしい。一気にシュンとうなだれてしまった。
「ま、そういうこった。ま、でもそんなに心配なら勝手に雅ん家におしかけるのはやめるさ」
「本当か!」
今度は嬉し気にバッと顔を上げる。千尋様ったら完全に絢香さんに主導権を握られてるんだけど。ゲームではもっとこう、俺様キャラだったんだけどなぁ。
「ただ、妹はやっぱり心配だから助けにはいく。お前はちょい離れたとこで見守っといてくれよ。で、なんか危ないことになったらソッコーで助けてくれればいいじゃん」
「う……む」
おお、さりげなくボディガード交渉はするわけか。やるなぁ、絢香さん。
「仕方ない、無茶はするなよ」
ため息とともに承諾した千尋様に、「ありがとう!」と可憐な笑みを見せてからくるりと私の方を振り返った絢香さんは、ニンマリを悪い笑いを漏らしていた。
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そんなこんなで、ついにやってきました、雅様のお屋敷!
完全に千尋様を手玉に取っている絢香さんは、なんなく千尋様をおだてまくって雅様のお屋敷まで案内させたかと思うと、「ここから先は気配でバレそうだから」なんてうまいことを言って、ちょっと離れた曲がり角の塀の後ろに千尋様を待機させている。
おかげさまで、やっと絢香さんとも秘密の会話ができそうだ。
「んもぅ、絢香さんたらいきなり色々とカミングアウトしだすからびっくりしたよ」
ちょっと苦情を言ってみたら「あの場合、仕方なねーだろ」なんて憮然とされてしまった。
「でも大丈夫なの、妹さんの事とか言っちゃって」
「ま、なんとかなるだろ。よく考えりゃ、俺が陰陽師だってバレなきゃ、それ以外は別に千尋に知られたところでどうってことないなって思ってさ」
……確かに。
「そう思ったら、アイツに素直に協力してもらった方が色々面倒がなくなるって気づいちゃったんだよな」




