貴方様は!
制服がはち切れそうな、お見事な大胸筋。鍛え抜かれた逞しい腕に、寡黙と言えば聞こえはいいが不愛想で不機嫌そうな、目つきの悪い三白眼。
ちょっぴり震えちゃうほど威圧感溢れる、貴方様は……!
「鬼寺様!?」
名前からも分かる通り、鬼族の血を色濃く継いだ攻略対象者である。
なぜに貴方様がここに!?
ファンシーな店内の中で異彩を放ちすぎていて、一種異様な空気を醸し出している。
え? え? なんか可愛いモノ好きとかなんか設定あったっけ……?
一生懸命に脳みその中身をひっくり返してみたけれど、悲しいかな千尋様に関する情報以外はかなりどうでも良かったから記憶の中にそれらしい記述は発見できない。
自分のポンコツさ加減が恨めしい。
「む、俺を知っているのか?」
「いやいや、有名人ですから!」
変に関心を持たれても困る。私は慌てて一般人を装った。気配だって消してるから、多分これでごまかせる筈だ。学校の近くだから三角お耳もふさふさ尻尾も隠してるし。
なのに、鬼寺様は鋭い眼光で私をガッツリ睨んでくる。
うう、なんなの。怖いよう。
「見かけたことが、あるような……?」
おお! そっちも自分の記憶を一生懸命検索していたのか!
しなくていい! しなくていいですから、鬼寺様!
「鬼寺! 一般客を脅かすなら、外に出てろよ!」
こ、この声は、絢香さん……!
冷や汗をだらだら垂らしていた私に、救いの女神が現れた。鬼寺様のでっかい体で姿は見えないけど、きっとこの鬼寺さんの体のむこうに、絢香さんの可憐な姿があるんだろう。
「脅かしては、いない」
「お前はいるだけで怖いんだっつうの! 悪目立ちすっから、マジで外で待ってろ」
なかなかに酷いことを言いながら、絢香さんは鬼寺様のごっつい体からぴょこんと首を出した。
「ごめんなさいね、怖い人じゃないのよ?」
満面の笑みで可愛らしく言ってますけど。さっき鬼寺様しかりつけてたの、ばっちり聞こえてますから。絢香さんはもっとこう、素の自分を出す時、声抑えた方がいいと思うな……。
「っていうか、真白じゃねえか!」
「はあ」
「なんだよもう、可愛い声だして損した」
「知り合いか?」
「ああそう、うーんまあ何ていうか、親友的な?」
親友って。
うーんでもまあ、説明しづらい関係だもんね。鬼寺様は「そうか、女友達が多いのはいいことだ」なんて僅かに目を細めている。
まさに美女と野獣。
しかしまあ何故にまた、よりにもよって、こんなごっつい人を伴ってこんなファンシーな店に来たのやら。




