もうひとつの手がかり
そんなこんなで何とか千尋様を振り切って、一人で蒲田へ出向いてみたけれど、結局は何の収穫もなかった。
駅の職員さんや通勤や通学に汽車を使っているような方たちに、片っ端から絢香さんの妹さんを模した写真を見せて歩いても「見たことない」「初めて見た」「美人だねぇ、紹介して」と言われるばかり。
挙句の果てにはナンパされたり強面のオジサマ方に囲まれたりと、本当にいいところなしで、若干私は落ち込んだ。もちろん幻術で逃げ切ってやったけど、収穫なしでただ疲れただけ、ってのは地味に悲しい。
仕方なく、今日は雅様にターゲットを切り替えたわけだけど。
ああ、どうして前世の私、雅様を一度でも攻略してみなかったんだろう。家もわからないし、趣味も好きなお店もわからないから、結局は学園前で雅様が出てくるのを待って尾行するしか手がないの。
千尋様に見つかると面倒な事になりそうだから、一生懸命に気配を消して雅様を探しているわけだけど、こうして校門が見えるファンシーグッズの店内で買い物客を装っているにも限界がある。
ああもう、早く出て来て、雅様。
ずうっとずうっと探しているのに、雅様はなかなか出てこない。
結構帰宅部の方達は一通り帰ってしまって、校門から出てくる人影もまばら。雅様って部活とか生徒会とか何かやってらしたのかしら。
興味がなかったからって、設定資料くらいもうちょっと真面目に読んでおくんだった。
まさか、見逃していてもう帰っちゃってるとか。
いやいや、多分それはない。なんせ攻略対象者だ。病的に白い肌も、真っ直ぐな長い銀髪も、一般生徒からはかけ離れている。あれを見逃すとしたら私の目は相当な節穴っぷりと言っていい。
可能性としては体調不良で欠席とか、早退とか……でも、さすがにそこまで間が悪いわけもないよねえ。
とすると、やっぱり部活か委員会とか生徒会とか、きっともっと時間が経ってから帰るんだろう。さすがにこの店でブラブラするにも限界だ。
懐が寂しいから嫌だったけど、向かいの喫茶店に腰を落ち着けるか……。
「うぷっ!?」
「おっと」
喫茶店に行こうと振り返った瞬間、なんか広い胸板にぶつかってしまった。どうやら校門の観察に集中するあまり、人が後ろに立っていることに気がつかなかったらしい。
思いっきり鼻打っちゃったじゃない……。なんで男の人がこんなファンシーな店に。
やつあたり気味にそう思いつつ、それでも私は謝った。日本人の悲しい性だな、これ。
「痛たた……スミマセン」
「いや、こちらこそすまない」
声につられて顔をあげた私は、思わず喉をつまらせる。
「ひぃっ!?」




