雅様の不思議
「別についてきているわけではないと言ったであろう」
「どう見てもついて来てるじゃないですか!」
「真白が素直に白状せぬからだろう」
つーんとそっぽを向かれたけれど、こっちだって言えない事くらいあるんだもん、しょうがないじゃない。
「言えないものは言えないんです。まだまだひよっこですけど、私にも依頼人さんが秘密にしたい事項を守るくらいの矜持はあるんですよ」
「だが、雅に会うと聞けば放ってはおけぬ。あやつは何かこう……」
ドキリとした。
なにか雅様について思うところでもあるのだろうか。
もしかして思わぬところから情報を得られるかも知れない、私はゴクリと喉を鳴らした。
「なんか、こう?」
その先が聞きたい。
なのに千尋様はたっぷりと逡巡した後、こうのたまった。
「なんかこう……嫌な感じだ」
コケた。
印象だけじゃねーか! とツッコミたい気持ちマックスだけど、大人だから我慢する。
「よく分かりませんが気をつけます、ご心配痛み入ります」
半目で棒読み口調になってしまったのは許してほしい。
「違う! 違うのだ! あやつは何かこう……そう、裏がある感じがするのだ! 一人で会ってはならん!」
「裏がある?」
「そうだ、あやつは絢香に群がる男どもをいつも遠巻きに見ているが、その時に妙に訳知り顔なのだ」
そういえば、絢香さんもジロジロ見てきてキモい的な事言ってたな。
「特にあの犬神の……」
「堀田君?」
「そう、そんな名前だった」
恋敵の名前くらい覚えましょうよ、という言葉を飲み込んで私は続きを促した。
「あれが絢香に飛びついたり抱きついたりするのを見て、なぜかいつも哀れな者でも見るような見下した顔をしていてな」
「妙ですね」
「その後必ず勝ち誇ったような笑みで深く頷いてから悠々と立ちさるのだ」
「思いっきり変な人じゃないですか」
「そうだ、不審極まりない。だからあの雅とかいうヤツには近寄って欲しくない」
真剣にそう言われてしまうとものすごく断りにくい。でも今の話を聞く限り、雅様は少なくとも絢香さんやその周囲に興味は持っているのに、敢えて遠巻きに見て何か自分なりの愉悦を抱いているように思える。
怪しい。
なんかとっても怪しい!
「えっと……千尋様が心配してくださっているのは、なんだか凄く伝わりました。ありがとうございます」
「う、うむ」
照れた様子が可愛らしい千尋様を撒かねばならないのは心が痛むが仕方がない。
「分かりました。でも、今日は少なくとも別の場所を調査する予定ですから大丈夫です」
「本当か? 雅には近寄らぬと誓うか?」
「はい」
本当です。今日は近寄らないと誓います!




