うう、面倒くさい、面倒くさいよ千尋様!
「言っていただろう? 確か……とりあえず蒲田の方あたってみて、それでもダメなら雅様周辺もあたってみようか、そう言っていたと思うが」
完璧に聞き取れてるじゃないですか、千尋様!
「黙秘します」
千尋様につっこまれたくない私は、仕方なく黙秘する事にした。もちろん千尋様は大層ご立腹だ。
むう、と口をへの字に曲げて腕組みではすに睨んでくる。
でも、妖気を表に出していない千尋様は可愛くて殺されそうではあっても怖くはない。とりあえず今は拗ねてる感じだから眼福なだけなのだ。
私は屈しないぞ!
「いい」
「え?」
「言いたくないのなら聞かないが」
ふい、と視線を外して千尋様がそっぽを向く。
これは……勝ったのだろうか。悲しそうにされると私もとても切ないが、かと言って千尋様に話すわけにもいかないんだから、追求から逃れられて良かったと思うべきなんだろう。
でも、こうも簡単に引かれてしまうとなんとなく後味が悪い気もするから厄介だ。
「急ぐのだろう? 行くが良い」
視線を外したまま千尋様にそう言われてしまえば、私も動かざるを得ない。そうなるとちょっと寂しい……ううむ、私ったら勝手だなあ。
「では、失礼します。あの……千尋様、すみませんでした!」
ぴょこんと一礼して、私はその場を後にした。
なのに、なぜついてくるんだ、千尋様。
こんなにがっつり見張られてちゃ、調査ができないじゃないの!
最初はたまたま方向が一緒なのかと思ったけど、千尋様はどこまでもどこまでも堂々とついてくる。我慢できなくなった私は、ついに振り返って千尋様に話しかけた。
「あの」
ピタリと歩みをとめるものの、千尋様はツーンとそっぽをむいたまま顔すらこちらへ向けてくれない。
「千尋様!」
「なんだ」
名前で呼びかけたら、なんとか答えてくれてホッとする。
「なんでついてくるんですか!」
「偶々だ、俺は俺の目的地にむけて歩いている」
そらっトボケて返してくるけど、そんなわけないでしょうに! 思わず半目になってしまった。
「……どこに行くんです?」
「真白には言わない」
澄まし顔でそう答えられてしまえば、さすがに聞きようがない。っていうか、多分聞いても答えてくれる気なんかサラサラないだろう。
うう、面倒くさい。面倒くさいよ、千尋様!
だがしかし、困った事になんとかまこうにも千尋様の方が断然、比べるべくもなく妖力が高いわけでこれっぽっちもまける気がしない。
どうしたらいいんだ……。
「千尋様」
「なんだ」
「折り入ってお願いが」
「言ってみろ」
「調査できないんで、ついてこないでください……」
シンプルにお願いする事しか思いつかなかった……!




