絞り出してよ!
「だーかーらぁ、分かんねーって」
不貞腐れたみたいに絢香さんは言うけど、不貞腐れたいのはこっちの方だ。
「さすがにたったあれだけの情報じゃ探しようがないよ、ちゃんと真剣なって
考えてよ」
「この前話したので全部なんだって。お前も妖狐の端くれなんだろ? 妖術とかでシャシャッと探せたりしないわけ?」
「無理言わないでよ、千尋様でもあるまいし」
「使えねーなあ」
唇を尖らせる絢香さんは、見た目は可愛いけど本当に結構辛辣だ。
でもさ、思い出す努力すら見せないのってどうかと思うんだけど。イラついてきた私は、わざとらしくため息をついて見せた。
「っていうか、ホントに千尋様ならその無いに等しい情報でも何とかなるかもね。 ああもう千尋様にお願いしちゃおうかなー、この前だって心配してこの店に来てくれたもんね」
「バッ……お前ふざけんな!あいつにバレたら……!」
ふふふ、効果覿面。
急に青ざめて挙動不審になりおったわ。
本気で嫁にされるんじゃないかと怯え出したあたりから、絢香さんにとって千尋様は怖いものの筆頭なのだ。
「いいんじゃないの?どうせ妹さんに押し付けるつもりなんでしょ?」
「チクショー!こっちにも色々事情があんだよ!じゃなきゃお前みてえなヘボに頼まねえよ!」
ご挨拶だな!
確かに人探しなんか初めてのど素人だけど、そんな人に依頼したの自分でしょーよ!
図星なだけにイラっとして、ちょっと語気も荒くなる。
「じゃあサッサと思い出してよ。その可愛い頭の中身ぜーんぶひっくり返すつもりで!」
「依頼主脅すか!? フツウ」
「こっちだって何の手がかりもなきゃ探しようがないのよ。せめてもうちょっとなんかないの、日本にいた頃の住所とか、行きたがってた場所とか」
「あ」
大きなお目々が見開かれて、次いで忙しなく瞳が動き始める。必死で何かを思い出そうとしているみたい。
頑張れ!
頑張れ、絢香さん!
「言ってた……」
ほらー、やっぱり!
だって私だって絢香さんと出会ってお互いに転生者だって分かってからは、日本の話結構したもの。私は福岡の出身だし、絢香さんは茨城だって言ってた。好きな音楽や歌手、アニメの話や学校の話、他の人には話せないような事をたくさん話したじゃない。
この世界にだいぶ慣れた頃に出会った私ですらそうだったんだから、転生した直後で混乱してたり不安だったりする時期に、何も話さないなんてそっちの方がおかしい気するし。
「言ってた、なんか。東京なんだよ、でもなんかちょっと都心よりは離れてたとこだったんだ。うわあ、何て言ってたかな」
絢香さんったら、もっと興味持って聞いてよ!