人探しって難しい
「うん、完璧!」
絢香さんそっくりな姿の私が、鏡の中で会心の笑顔を見せる。
とりあえずまずはこの姿で写真館に行って、探し人である妹さんの写真をゲットしなくちゃね。
私本人の姿で捜索するときは妹さんの写真はどうしたって必要だ。絢香さんから写真を貰えなかったんだから、ちょっと裏技だけど許されるだろう。
そしてある程度情報を絞り込んでから、ここぞというときにこの姿でゲットできる情報の質をあげるんだ。その時が楽しみなくらいには、うん、とってもよく似てる。
乙女ゲームのパッケージで見たような優し気な表情で写真を撮ったら、上出来なその写真をもって手近な喫茶店で手帳を開く。
手持ちの情報は少ないけれど、やみくもに歩き回るのは効率が悪すぎる。まずは本人の情報を整理して書き出した上で、可能性が高いところから情報を集めていかないといけないよね。
そうして私の手帳に書きだされたのは、概ねこんな事だった。
・妹さんが今の住まいがある「都古百地町」から逃げ出したのは転校の前々日、今からもう7か月も前のことだ。
・転居してくる前に住んでいたのは「西ノ茶屋町」。
・絢香さんと、逃亡中の妹さんがこの世界に来たのは転居の数日前、ほぼ同時だったらしい。
・ゆえに、所持金は不明、立ち寄る場所やこちらでの友人は不明。
・性格的にはおとなしく、綾香さん相手にもおどおどしてどもるくらいだったというから相当なものだ。
・好きな色はブラウンかグレー、ブラック。服はだいたいこの地味めな配色に白が入るくらいだったらしい。
・騒がしい場所は嫌いで、古びた書店や雑貨屋さんが大好きだったらしい。
情報を書き出した手帳を見て、ため息が漏れる。
たったこれだけの情報で、どうやって探し出せっていうんだろう。
でもそれも仕方ないことなのかもしれない。なんせ絢香さんと妹さんだって、数日しか一緒に過ごしていない、お互いのことがあまりわからないのも無理からぬことなんだ。
この世界はたぶん、大正時代くらいの日本をモデルに作ってあると思う。
街にはまだまだ人力車や馬車なんかが幅をきかせているけれど、お金さえ積めば鉄道だって走っているんだもの。逃げようと思う人がそこらへんでうろうろしている気がしない。
だって、絢香さんの親御さんだって探していないはずはないじゃない? それでも見つかっていない人をどうやって探せばいいっていうの?
絢香さんから依頼を受けて、そのあとすぐに千尋様がおいでになって、なんだかバタバタとここまで来たけれど、冷静に考えてこの依頼はすごくすごく難しいものなんだと、いまさらになって実感してしまった。