冷静に考えると……。
「ええと、絢香さんは男の方を侍らすつもりはないと……断っているのについてくる、もう嫌だとおっしゃっていましたが」
「ふん、分かるものか、真白の同情を引こうとしてそう言っているだけではないのか?」
千尋様ったら意外に疑い深いな。まあ実際私にも真相はよく分からないんだけど。
「そんな事はどうでもいい、私は真白があの怪しい女男と接触しなければそれでいいのだ。……真白!」
「は、はい!」
「その依頼とやらは長くかかるのか?」
「初めてやるタイプの仕事なので……どれくらい時間がかかるのか見当もつきません」
「ええい忌々しい、金は俺が出す、他のヤツにやらせる事はできぬのか?」
うう……どんどん千尋様のオーラが怖くなっていく。
「仕事の内容考えると、無理だと思います……」
だって絢香さんにソックリの人探すなんて、どう考えても他の人に話せないよ。
「では俺が一緒にその依頼にあたろうではないか、それなら早く済むだろう」
「だ、ダメ! ダメですよ、それはダメ!」
「なぜだ、やましい事でもあるのか!」
「いやだから、依頼の内容は絶対ナイショなんですって!」
「では私もその……なんと言ったか、真白がやっているよろず請負? になれば良いのか?」
頭が白くなった。何を言ってるんだろう、千尋様ともあろうお方が。
「もし千尋様がよろず仕事請負人になったとしてもこれは私への指名依頼ですのでお話できません。それにそもそも千尋様、学園とかお屋形様の補佐とかどう考えてもお時間ないですよね?」
「学園など影をおけば良いが。そうか、どうしても無理か。指名依頼とはやっかいなものだな」
ううむ、と唸っている千尋様を見て漸く私は胸を撫で下ろした。
やれやれ、やっと諦めてくれたか……意外と本気で食い下がってくるからちょとビビったよ。
「出来るだけ早く依頼を達成して絢香さんとはあまり会わないようにしますので」
「む……」
まだ納得いかない顔をしている千尋様を困ったなあ……と思いながら見ていたわけだけど。
ふと、あれ? と急に冷静になる。
なんで私、こんな一生懸命に千尋様のいいつけを守ろうとしてるんだろう。
これまでは確かに千尋様は許嫁で、それ以上に妖狐一族の次代の長確定の方なわけだからそのお言葉は絶対だと思ってきたんだけど、私もう許嫁でもないしさらに言えば一族の者でもなくなってるよね?
さっき仰ってた内容から、千尋様が私に対して罪悪感を感じてすごくすごく心配してくださってるのはなんとなく理解した。
許嫁を解いた事で私が一族からも学園からも追い出されるとは思っていなかったと、申し訳ないとおっしゃってたし。
よし、と気合いを入れて私は顔を上げた。
千尋様にはっきりと言おう。心配しなくていいって、ちゃんとひとりでやって行けるって。