千尋様、やっぱりご存知だったんですね。
あ、やっぱり千尋様、絢香さんが男の子だって事は分かってたんだ。そうだよね、分からない筈ないと思った。
という事はその上で千尋様は絢香さんを一族に招き入れようとしてるわけだから、それって相当の覚悟だと思う。
絢香さんにとっては災難としか言いようがないけど、千尋様が本気出したら絶対に逃げられない。
でも千尋様は女性になったら本当に美人だと思うのよ?
きっと玉藻御前や妲己様もかくやの美しさ、ちょっと見てみたいような怖いような。
ある意味お買い得というか、この恐怖に震える体でさえなければ本当は私がその立場になりたかったというか。
艶やかになるだろう姿を想像して千尋様のご尊顔を仰いでしまう。
……うん、絶対に綺麗だと思う。
絢香さんは「怖い」とか言ってたけど、きっと一目見たら惚れちゃうと思うなあ、確かに可愛い系じゃないけど、千尋様は今ですら思わずキュンとしちゃうくらい、儚げな笑顔が素敵な方なんだもの。
「お前が驚くのも無理はない。信じられないだろうが真白、とにかく約束してくれ。もう絢香には近寄らないと」
マジマジと千尋様を見ていたのを、千尋様は違う意味にとったらしい。頑張って私を説得しようとしてきた。
ただなあ。
「そうしたいのはやまやまなのですが……そうは言えど依頼人ですので、会わないわけにも」
「む、そ、そうか依頼か。ではもう触らせたりはしないでくれ」
「あ……そうですよね、絢香さんはもう千尋様の婚約者なんですものね。私ったら考えなしでごめんなさい」
「!!!」
なんですかその絶望に満ちた顔。もしかして絢香さんは嫌がってるの気付いてたりします? 仕方ない、それならば必勝法を伝授して差し上げますよ。
「あの、絢香さんってモフモフしたのが大好きなんです。だから千尋様のゴージャスなしっぽをモフモフさせてあげれば、メロメロになるかも」
「真白……」
あ、千尋様の耳がヘニョっとなっちゃった。
若干涙目、わあ……こんなに可愛い千尋様初めてかもしれない。シッポのうなだれ感半端ない、絢香さんが真白のシッポに惚れちゃうの分かる気がする!
絢香さんには悪いけど、私は千尋様の幸せの方が優先。千尋様ならきっと幸せにしてくれるから頑張って、そして千尋様も幸せにしてあげて欲しい。
「私、あの協力しますから……お幸せに」
「違う! 違うんだ真白、俺は別に絢香が好きというわけでは」
「えっ?」
「あれは真白を自由にしてやるために言っただけで」
まさかの回答に、思わず固まってしまう。千尋様は絢香さんを好きなんじゃなかったの?
「あ、あわよくば真白が絢香に近付かないようにと思っただけで」
可哀想なくらいしょんぼりした耳とシッポが、多分嘘じゃないんだと教えてくれる。
私はポカンと口を開けて恥ずかしそうに俯く千尋様をただただ凝視していた。




