*彼と彼女の秘密*
翌日。クラブの帰りにチェロの弦と弓をもらい少しだけ手入れをして自宅に持ち帰った。
さすがに1Lのあんな狭い部屋の中でチェロを引く訳にはいかないのでソフィアはいつもの練習場所にしている線路の高架下にチェロと折りたたみの椅子を持ち込んだ。
「・・・さて、よろしくね。」
チェロのチューニングとピッチカートを少しだけ行った。
「いい音。」
バイオリンも好きだけど、やっぱりチェロがいいね。
「・・・」
彼女はたまらなくなり、弓を持つ手に力を入れ加えると曲を弾き始めた。
曲名は、カタロニア民謡鳥の歌。
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次にサン・サーンスの白鳥。
楽譜は全て頭に入っている。イメージがそのまま音として残る。覚えるのではなく忘れないそんなメロディと音。
白鳥の演奏が中盤に差し掛かったと時に一人の初老の男が近づいてきた。
男は土手の坂を気にしながらゆっくりと降りてきた。
「・・・ソフィー。」
男は白髪を蓄え、縁の黒い眼鏡をかけ、服装はジーンズにシャツにジャケットという年齢相応なものだった。
「デューイ・・・。」
ソフィアはチェロを引く手を止めてての方を見た。
彼女の今までの和やかな表情は一変し緊張し睨み向けるような目線で彼を見た。
「ソフィー・・・。最近顔を見せないな。」
「・・・最近忙しくてね。」
デューイはソフィアとの距離を詰めながら話す。
「月一回の集まりにすら参加出来ない忙しいさか?いいか?ソフィー我々
は・・・」
「わかってるわ。次の集まりには顔を出す。」
ソフィアは強い口調で言う。
「・・・」
少しの間お互いの視線がぶつかっていた。
デューイの顔には彼の苦労を物語るかのような年齢以上のシワが蓄えられていた。
風の音と、川の流れる音だけが、場を支配していた。
「・・・そうか。わかった。」
デューイはソフィアとの視線
ふっとしたに外すとゆっくりとした足取りでその場を去って行った。
「・・・」
彼女はデューイの背中を睨みつけながらその姿が見えなくなるのを確認してから、再びチェロを引こうとした。
バン!!!
弓を弦に当てた途端に大きな音がして弦が一本切れてしまった。
「はぁ・・・。気持ちは伝わるものね。」
ソフィア強張った全身の力を抜き、目の前を流れる川を眺めた。