・彼女と彼の話・
西暦2499年 12月24日
世間は世紀末で浮き足立ちながらも、いつからか定着したクリスマスイブの夜を楽しんでいた。
寒い夜を楽しむかのよう街には様々な装飾が施されありきたりのクリスマスソングが流れる。
「うー。さむいなぁー」
宮本 聡史は長いコートの首と埋め手をポケットに、突っ込み街をを歩いていた。
なんか面白いネタでもないかなぁー
聡史は新聞社王手の帝国新聞社の記者であり、かつて27歳の駆け出し記者に、して、世間を騒がせた国会議員の大量汚職事件をスクープして一躍有名になり、帝国新聞社にヘッドハンティングされた経歴を持つ。
だけど、それももう7年。その後、それらしいスクープもなく、芸能人を追っかけたり、スポーツ選手をインタビューしたりと細々、辛うじて記者としてその仕事をしていた。
今年も終わりかなぁ・・・。
聡史はコートの内ポケットからタバコを一本取り出し、火を付けようとした。
カチ、カチ、カチ
何度かライターを操作するが一向に火が出ない。
「・・・っくそ。」
カチ、カチカチ!
「全くついてねぇーなぁー・・・。」
聡史はライターをしまいながらも帰宅路を急いだ。
辛うじて味のするタバコを咥えている。
駅に近づくにつれ段々と人が多くなってきた。
クリスマスイブさながらカップルが多く歩きにくい街中であった。
「ん?」
駅の改札すぐ側の開けたスペースに人だかりが出来ていた。
なんだ?面白いネタになりそうかなぁ。
聡史はカップルだらけの人だかりを避けなんとか一番前に出て行った。
そこには背の高く、金髪のショート髪をを有し、その顔には仮面舞踏会さながらの仮面をつけた女性がいた。
そのスタイルの良さを強調するかのようなタイト目な服を着て、高いヒールを履いていた。
その手には刀の孤 如くバイオリンとその弦が握られていた。
彼女は集まった群衆を一瞥するとその手にしたバイオリンをゆっくり掲げ弾き始めた。
最初は誰もが知っている定番のクリスマスソング。
そこから段々とアップテンポな曲になっていく。
・・・すげー。
聡史は彼女に見とれた。姿だけを見ると今風の普通の女性に見える。
そのスタイルと高身長からモデルでも良さそうな女性。
そんな彼女が小気味好くバイオリンを弾く。
そのギャップが聡史の心を鷲掴みにしてしまった。
彼女はちょっとの休憩を置いてから最後になるであろう曲弾き始めた。
その曲は今までに聞いたことのないような曲であった。
不思議な曲。音の順番が間違っているじゃないかと思うぐらいの曲。
なんだろう。この感覚は・・・。
聡史はこの曲の名前がとても気になりいつも持っているボイスレコーダーの電源を入れた。
曲が終わり彼女は小さく頭を下げた。
集まったカップル達からは小さく拍手が起こりその前に口を開けて置いてあるバイオリンのケースに小銭を投げ入れて帰っていく。
聡史も手持ちの小銭を投げれた。
最後の一人が小銭を投げれ入れると、彼女は一言も話さず小銭の入ったバイオリンケースを手慣れた様子で片付け始めた。
聡史周りに人がいなくなってから彼女に、声をかけた。
「・・・とても上手かったですよ。道でバイオリンを聞くなんて始めてだったよ。・・・これ、よかったらもらってもらえるかな。」
聡史はポケットから自身の名刺を取り出した。
彼女はその名刺チラッと見たかと思うと一言。
「・・・必要ありません。記者さん。他の人に渡してください。」
彼女は仮面を外しながら答えた。
美しい・・・。
聡史は彼女の素顔をみて素直に感じた。
その顔はとても整っており、まるでモデルかのような容姿であった。
「え、あぁ。いや・・・。他に受け取ってくれる人もいないんでね。」
聡史は彼女に見とれ遅れた反応を取り戻すかのように答えた。
「街のティッシュみたいな感覚で受け取ってもらえると助かるよ。」
彼女は聡史の取り出した名刺をもう、一度見たが名刺には手を出さなかった。
「・・・ところで、君はなんで僕が記者だと?」
聡史は出した名刺をバツが悪そうにしまいながら聞いた。
「カップルだらけのこんな日に、無精髭の男が一人。最初は警察かと思ったけど、警察は名刺なんか渡そうとしないじゃない?そうなったら記者かなって思った感じだね。」
彼女は片付けながら返答した。
面白い子だ。
「君は・・・面白いね。ちょっとこの後時間あるかい?少し話を・・・。」
「聞いていただいてありがとうございます。また、ここで演奏するのでまた見かけたらよろしくお願いします。」
彼女は聡史の言葉を遮ると慣れた手つきでバイオリンケースを手に持ち足早に街中に消えて行った。
「・・・・。」
聡史はその後ろ姿を見つめながら、咥えているタバコに火付けようと取り出したライターを操作した。
カチ、カチ・・・。ん?
あぁ、そうか・・・
ライター切れてたんだ・・・・。
ジリジリジリジリ!!!!
けたたましい音で目を覚まし、即座にそと音の時計を止め時間を確認する。
・・・7時・・・か・・・
「く、くーー・・・あーだる・・」
聡史はボサボサの頭を搔きむしりながらベッドから這い出すと部屋のカーテンを開け、テレビの電源を入れた。
「・・・」
朝日の眩しい光が聡史の全身を包む。
寒空の中の朝日。どこまでも澄んでいそうな晴れ模様だった。
聡史はその動きのまま洗面所に行き顔おを洗い頑固な寝癖を手際よく直した。
そして、冷蔵庫からいつもの朝食の缶コーヒーを取り出すとカポっとあけ、二口一気に飲んだ。
渇いた身体にしみわたる、この感覚がなんともいない。
そんな事を思いながら職場に行く服装に着替え始めた。
「・・・クリスマスにも仕事かよ。」
ついているテレビから流れるクリスマスソングを聞きながら聡史は悪態をついた。
男一人、結婚もしてなければなければ彼女もいない。
給料は一人で生活する分には十分過ぎるほどもらっている。
家は駅から歩いて5分の1DK。なかなか悪くない暮らしだ。
仕事のやりがいの無さだけを除けばだけど・・・・・。
かつてベッドハンティングされた時に感じたあのなんとも言えない高揚感。自分が社会を変えた。これこそがジャーナリストだと思った。ずっとそんな事を感じながら仕事ができると思っていた。
だけど、現実は厳しい。
「・・・そろそろ行くかな。」
聡史はスーツに着替え終え残った缶コーヒーを一気に飲み込むとテレビを消そうとリモコンを手に持った。
「・・・・・。」
消そうリモコンを向けたテレビにはバイオリンを弾くCMが流れていた。
そういえば、昨日のバイオリニストの女性がいたな。
聡史は彼女が引いた曲入っているボイスレコーダーをポケットから取り出した。
・・・ちょっと調べてみるか。
聡史はテレビを消し、家を出て職場に向かった。
「・・・おはよう。宮本君。」
職場に着くと自分の部署の上司が声をかけてきた。
「おはようございます。里中さん。」
里中 孝一 かつての聡史をベッドハンティングした帝国新聞社の記者だった。
里中は数多のスクープをキャッチしその筋では、帝国新聞社の里中といえば知らないものはいないと言われる程の人物であった。
その手腕もさることながら各方面にある人脈でも有名でもあった。
政財界、宗教界、裏の職業から世界的な人物まで様々であった。
「宮本君、今日はクリスマスだぞ?・・・キリストの誕生日にも関わらず我々は仕事だ。誕生日に似合う仕事をせんとな。」
里中はそんな事を真剣な顔をして言う。
これが来年還暦を迎える年齢の人だとは思い難かった。
里中は白髪混じりの髪の毛を搔きむしりながら言った。
「・・・あいにく僕はキリスト教徒ではないんでいつも通りの仕事をさせていただきますね。」
聡史を席に着きポケットに手を突っ込みボイスレコーダーを取り出した。
なれた手つきで自分のパソコンを立ち上げるとボイスレコーダーとつなぎ、昨日録音した音楽の曲名を調べ始めた。
「・・・ん?」
聡史はあまり見慣れない画面表示に気を取られた。
「里中さん、これ・・」
「どうしたんだ?」
里中は椅子のまま聡史のパソコン画面を覗き込んだ。
「これは・・・エラーコード・・」
画面に出たエラーと言う赤い文字が気になった。
「そうですよね。エラーコード。でも、エラーコードっておかしくないですか?」
聡史は続ける。
「これ、ちょっとした音楽を検索してるんですけど、検索ワードが出てこなかったら検索なしになりますよね?でもこれはエラーコード。」
「・・・まぁな。エラーコードってのはエラーなんだよ。検索なしでもなく、ありでもなくエラー。まぁなんでもいいけどよー。いつも言ってるだろ?」
里中は先ほどとはうって変わって鋭い目つきになり話す。
「・・・気になったことは徹底的に調べろ。そして身の危険を感じたら逃げろ。・・・ですよね?」
聡史は答えた。
「そういうこったな。まぁ、命を大切にして頑張れよー。」
里中はそう軽く言いながら自席戻って行った。
「さてと・・・どうするかな。」
聡史はその赤いエラーコードを見つめながら昨日のバイオリニストの事を思い出していた。
聡史は手元のパソコンを操作しインターネットで情報がないか調べ始めた。
女、バイオリニスト
・・・それっぽいのがヒットしない
駅前、女、バイオリニスト
どうだろ?何件かストリートライブの様子がアップされた動画があったが昨日のそれじゃなさそうだった。
一件ぐらいありそうなもんだけどな・・・。
ん?
それっぽい動画があった。再生してみる。
「・・・んだよ?これ・・・」
この動画は管理者によって削除されました。
そう無機質に書いてあった。
たかだからストリートライブの女バイオリニストの動画のどこが削除するに至っただ?
他にも同じような動画は山ほどあるのに・・・。
ますます、気になってきたな。
聡史はインターネットのいろいろなサイトを探してみることにした。