「 らめる」
諦めの悪い人がいた。
本人は諦めているつもりでも、実際、八割方諦めきれていなかった。
諦める事のメリットはその人自身の為だった。だから諦め切れなかった。
正確には、その人の心がいけなかった。自身に有利である事より、諦めない事の方を選んでしまうからだ。
しかし、その人は本気で諦める事を決意した。
だからその人は自身に期限を設けた。その期限が来るまでに必ず諦めると。
しかし、その期限が過ぎてもその人はなかなか諦めきれなかった。
そこで、その人は自身に有利である事以外で、諦める事のメリットを探した。それがその人の愛しい人の為になる、他のメリットが見つかった瞬間、その人はようやく諦める事ができた。
その時、その人の心は二極端に分かれた。片方はボロボロで荒んでいたが、片方は澄み切った青空のように晴れやかだった。
その人は知った。
人は自身の幸せより他人の幸せを願える生き物だと。
他人の幸せを全力で願った時、今まで不可能だった事も可能になるのだと。
諦めの悪い自身が諦める事を可能にした、それが証明だった。