表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第四話(解決編) 強くなくても自分と彼女のためにできることを
50/51

悪人はいつか報いを受ける2

 学校で起こった集団昏倒事件は、ちょっとした騒ぎになった。

 今ではほとぼりは冷めたが、いまだに体調を引きずっている生徒はちらほらみられる。

 それが一人の参照者と呼ばれる特殊能力を有する者によって引き起こされた事実を知っている人間は、かなり少ない。


 ……あのときカグラに後ろから殴られて、気づいた時には現実に戻されていた。

 そして『本』も俺のカバンからなくなっていた。『鍵』は一度限りで使ってしまったし、もはや『本』の手掛かりは以前よりないといえる。


 そんな中、さきほど笹露から連絡があった。

 なんでも『本』が鎖でつながれているのを目撃した生徒がいるらしかった。

 しかしおかしいのは、その目撃した『本』の装丁がブラウンではなく真っ黒だったということと、近づいても生徒に能力を与えなかったことだろう。


 情報を聞くに、『本』と同じような存在がもうひとつあるとしか考えられないのだが、それをひっくるめて調べてみる必要がある。

 『本』の力はそれだけで脅威になりえる。どうにかして手に入れたい。『黒い本』については千子も知らないようだし、俺が直々に探しに出るしかない。


 ――放課後を告げるチャイムが鳴る。


「よし、行こう。じゃあな加納」

「おー、また明日な」


 俺は立ち上がって前の席の奴に挨拶をしてから鞄をつかむと、さっそく廊下に出た。


「遼さーん! 見てくださいこの姿!」


 早めに来ていた姫鶴が、なにやらテンション高めで駆け寄ってきた。

 高い声が頭に響く。俺はめいいっぱい顔をしかめながら相手をしてやることにする。


「……なんだ?」

「じゃーん」


 姫鶴は両手を広げて、満面の笑み。

 この姿、とか言われてもいつもと同じだった。


「は?」

「じゃーん!」


 俺は目を凝らして姫鶴を見てみるが、まったく何が言いたいのかわからなかった。 


「じゃ――」

「じゃーんだけじゃわからんだろうが具体的に話せこのチビが!」

「いひゃいいひゃいれす!」


 頬を両手でつねってやると、ようやく姫鶴は打ち明けた。


「制服がぴったりになりました!」

「ああ……」


 確かによく見ると、ぶかぶかしていた制服が心なしか縮んでいる。

 ただ着ているというよりはやはり着られているという印象で、分不相応な印象なのは変わりなかった。


「で? だから?」


 廊下を歩く生徒が、俺を見て不思議そうな顔をして通っていく。参照者ではない彼らには、俺が独り言をしゃべっているようにしか見えない。


「能力もパワーアップしました!」


 姫鶴はリトルペンナイフを発動すると、触った壁から相変わらずナイフが勢いよく生える。

 しかしいつもと違ったのは、その生えたナイフが柄まで出てくると、自律して空間を飛び回ったのだった。


「ほう? しかしなぜ突然……?」


 なんの前触れもなく力が上がるなんてあるのだろうか。すごい修行とかをしたのでもあるまいに。

 考えたが――答えはひとつしかなかった。

 姫鶴はパワーアップしたわけではない。今までが弱かったのだ。

 おそらく参照者である小葉菜先輩の魂が隔離され、身体が『本』の範囲の外にいることで、現実にいる姫鶴リトルペンナイフという能力はずっと弱体化したままだったのではないか。

 しかしその縛りが、今は解かれている。


「普通、体のほうがその制服に合うように成長する流れだろ、そこは。なんで制服のほうが縮んでるんだよ。それじゃ若干動きやすくなった程度で身体能力的にもほどんど変わらないだろ。大人になっておっぱいでかくなれよ。大きくなりすぎてみだらに服破れろよ。なんでそんな風に設定されているんだ、馬鹿なのか?」

「し、知りませんよそんなのぉ」

「――待て。だとしたら……」


 言い終わる前に、俺の予感は的中する。


「遼君いたー。おひさー」


 なんてのんきな声で、小葉菜先輩が手を振って挨拶してきたのだ。


「こ、小葉菜先輩!」


 いきなりのことに、俺は硬直した。

 長くて少し野暮ったい髪はそのままで、俺にニコニコ顔を向けていた。やせて色を失っていた肌も次第に艶が戻ってきていた様子だ。

 どこかで右目を怪我したのか、眼帯をしている。


「小葉菜ちゃん戻りました!」


 小葉菜先輩の腕に抱き着く姫鶴も、なぜか偉そうだった。

 ――あ、千子が物陰から羨ましそうにこちらを遠目に見てやがる。無視だな。

 というか、なぜ先輩がここに。


「あたしはべつに『本』の中に閉じ込められていたわけじゃなくて、出ようと思えば自由に出られたんだよ。ちなみに、『本』ならここにあるよ」


 言いながら、小葉菜先輩は鞄の中に無造作に入れていた『本』を取り出す。『本』に施されている枷も健在だ。


「あと、もう先輩じゃないよ。休学してたせいで留年したからね。学年同じになったよ。クラス違うけど」

「それはいいんですが、その眼帯は?」


 俺は右目の眼帯を指さして尋ねる。


「ああ、それはね……」


 にわかに小葉菜先輩の雰囲気が変わった。

 表情からも明るさは消え失せる。

 小葉菜先輩は眼帯を少しずらして、右目で俺をにらんだ。カグラが持っているのと同じ色の、その血のように赤い瞳で。


「右目だけ赤かったら珍しがられるからな、こうして隠している」


 重い声色で、彼女は俺に告げる。


「……って、お前カグラか!?」

「見定めると決めたからな。今度からは常に近くで監視させてもらう」

「めんどうだな畜生」


 小葉菜先輩の演技をして近づいてきたってことか?


「おいカグラ、小葉菜先輩はどうした? 『本』の中に置いてきたのか?」

「あたしもいるよ!」


 暗い表情から、彼女はいきなり明るさを取り戻す。


「これは――一つの肉体に二つの魂が同居しているってことか?」

「うん、そうだよ!」「……だな」


 『二人』は、同じように答えた。

 二人はケンカし合うことなくうまい具合に共存しているようだった。


「私はお前より強いはずなのに、この前の戦いではなぜか勝った気がしない。納得がいかん。お前は弱くなったことで、何か違う強さを手に入れたようだ。それが、お前の息の根を止めようとしていた私をためらわせた」


 カグラっぽい奴は腕を組んで俺を見据える。


「だからわざわざこうして宣戦布告をしに来たのだ。これからは私は、お前を殺す理由を探すことにする」

「な、仲良くしましょうよう」

「お前もさっさとディアボロスから手を切ったほうがいいぞ姫鶴。こいつはろくでもないやつだし、いずれろくでもないことをしでかす」


 くそう、言いたい放題かよ。しかし真正面から挑んでも勝てないだろうしなぁ。


「ま、まあせっかくだから、先輩も『黒い本』のうわさについて調べてくださいよ」


 俺はカグラの言葉を全スルーすることにした。


「……『鍵』がもうないから『本』の力は使えないよ?」


 カグラから代わって小葉菜先輩が答える。


「魔法は使えるでしょ? 手伝ってくださいよ。そっちだって気になるでしょ?」


 すでに須藤にも笹露にも、放課後に集まるように言ってある。とにかく『黒い本』の情報を集めたい。


 ただ――優先事項が変わった。作戦は変更だ。『本』よりも、目の前のこいつである。

 『黒い本』の情報を探しながら、カグラおよび左文字小葉菜を懐柔する手立てをこれから練っていかねば。

 俺の行動いかんによって殺すかどうかの判断が下される。

 それは無視しがたい縛りだが、しかしそれは逆にいえば猶予があるということだ。いつか審判の時がくるかもしれない。だがそれまでにどうにかできれば俺の勝ちだ。

 だから、これからはどうやってカグラをおしおきしてやろうか考えることにしようか。

完結です。

感想やブックマークが励みになり、無事終わらせることができました。

また気が向いたときに新作など投稿できればいいかと思います。

ここまでお読みいただいた方、最後までお付き合いしていただき感謝の極みです。ありがとうございました!


--------

Special Thanks!

・ネタを相談しているときに「魔王を倒せるならそれは覇王しかなくね?」というアドバイスをくれた友人T氏。

・作品について感想、ご指摘いただいた皆様

・ブックマークや評価をしてくださった皆様

・お読みいただいたすべての皆様

・「小説家になろう」運営様

・ブラックな労働環境を耐えてくれているうちのパソコン様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ