幕間
「あぁぁ……ビッチっぽかったかなぁ……そんなつもりなかったんだけど」
弾む声の主――左文字小葉菜は、頭を抱えながらごろごろと床を転がっていた。
「もぉーやだ、こんな慣れないことするんじゃなかったよ。普通に手からポッて魔力あげればよかったよ」
場所は変わらず、薄暗い空間。無数にある本棚に、テーブルが一つに椅子が二つ。
ここが『鍵』で封じられている『本』の中であることは、小葉菜は当然知っている。
自らこの『本』の中へ入ることを選んだのだ。すべては覇王を打倒する計画のために。
「そんなことは問題ではない」
重い声の主――カグラは、悶絶する小葉菜を固い表情で見下ろしながら言った。
「なぜディアボロスに手を貸した? あのままいけば確実に奴は倒せたはずだ」
小葉菜の動きがぴたりとやんだ。
「あの場は任せてほしいというから任せたらこのざまだ」
カグラの持つ紅に光る右の瞳でにらみつけられるも、小葉菜は平静そうにむくりと起き上がった。
「……カグラは、この一連の事件どう思う?」
「それはディアボロスの蜂起から勇と千子の同士討ちまでのことを言っているのか?」
そうそう、と小葉菜は頷いた。
「千子に統率力がなかっただけだ。だから参照者同士で潰し合うような真似が起きた」
カグラがにべもなく答えるも、小葉菜は穏やかな表情で首を横に振った。
「私はそうは思わないよ。予想外なのは姫鶴のことを好きになったくらいで、千子はよくやってくれたよ。まあ本人は自覚ないだろうけど」
「?」
「わからない? もう私の計画は完遂されているんだよ」
「……どういう意味だ」
「ディアボロスなんてもうこの世のどこにもいない。いるのは、ディアボロスの記憶を持った仲門遼という人間だけ」
カグラの顔が怒りでみるみるこわばっていく。
かまうことなく、小葉菜は本棚から一冊の本を取り出してページを開いた。
「三日月勇君が暴走したとき、遼君は周囲の安全を一番に考えた。あまつさえ、自分が危ないとわかっていながら姫鶴を助けて……この資料に記されているディアボロスなら、勇君の暴走さえ自分の野望に利用するはずだよ。自分側の犠牲をある程度許容しながらね。カグラもいいかげんわかってほしいな」
「…………」
無言のままのカグラだが、握ったこぶしは、わなわなと小さく震えていた。
「遼君はもう、世界に仇なす存在にはなりえない」
「ふざけるな! 私は認めない!」
カグラは小葉菜の持っていた本を乱暴に叩き落した。
「そんなのがお前の計画だと!? 魔法を使う素質が一番あったから覇王討伐の指導者にしてやったのに、なんだその答えは! それがお前のやりたかったことか!?」
「本はもっと大切に扱おうよ」
小葉菜から、やや軽やかさが抜けた。本を拾いながらも、真剣な顔をカグラのほうに向けている。
「料理を覚えたての調子に乗った乙女じゃないんだから、そんな余計な応用はいらない! 倒すとはそのままの解釈でいい! あれは生きているだけで害悪だ。これからも、変わらず!」
「少しは見届けなよ、遼君の行動」
「もういい、あとは私がやる。ずっと遠慮してきたがやめだ。お前の身体を貸せ、小葉菜。私が自らディアボロスを倒しに行く。お前はさっさと『本』の場所を移動させろ」
「それはいいけど、今の遼君を倒せるの?」
「お前が与えた魔力ももう尽きたし、あとは変な土の能力だけだろう。造作もない」
小葉菜はくすりと笑った。
「だからこそ、強いんだよ。今の遼君は」
「戯言を――」
「なんだなんだ、せっかく来てみればこっちでも仲間割れか?」
二人がにらみ合っていると、突然男の声が割って入った。
「ふん、ざまあないな! 俺がいなくても空中分解で勝手に四散する勢いじゃあないか」
嘲笑しながら暗い本棚の間から姿を現したのは、制服姿の仲門遼であった。
「お前が出向く必要はないぞ、カグラよ。感謝しろよ、俺の方から話を着けにきてやったぞ!」
チッとカグラの舌打ちする音が聞こえた。




