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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第三話 自業自得とひねくれ者の魔法
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6 非常事態:いろいろひどい状況

「で? どうするの? べつに二人がかりでも構わないわよ」


 千子は四つん這いになった須藤の上に座りながら、余裕そうに足を組んでいた。

 馬鹿の須藤はというと、ここにきて悔しそうにかすれた声を出す。


「遼、氷上さん、すまねえ……どうやら俺は、ここまでのようだぜ……」

「ここまでって、椅子になってるだけだろお前! なんで満身創痍の体なんだよ! そのまま死ぬの!? 別にいいけど!」


 篭絡が早すぎるんだよ。昨日の今日じゃねえか。ドMかよ。


 いや、ここは千子の鮮やかな手並みのほうを褒めるべきだろうか。


「須藤! 帰ってこい! お前自分の尊厳はどうした!?」


 説得を試みてから、この言葉は須藤には響かないと確信する。

 たぶん尊厳とか捨ててる。

 ――いや、千子に捧げていると言ったほうが正しいか。


「そうだ、小夜さよ! 小夜を救ってやった恩を忘れたのか! お前が裏切るんなら小夜を保護している俺の面子はどうなる!? 二度と会えなくなっても知らんぞ!」


 お前の猫がどうなってもしらんぞ、というニュアンスを込めて言ってみる。


 須藤はここで正気に戻ったように顔を上げた。


「小夜……! そうだ、俺は……」


 よし! これはまだ戻ってこられる案件だ。


「猫ごときと私を天秤にかけるつもり? そんな風に私のことを教えた覚えはないけど――もっとちゃんと身体に教え込む必要がありそうね」

「お願いしま――ち、違う。いや、いいのか?」


 いちおうは揺れ動いているようだ。小夜を利用して脅すようなことになってしまったが。


「須藤!」「この私を裏切るつもり?」

「う、うわあああっ」


 脅迫と調教の汚いジレンマに耐えきれなかったのか、須藤は叫びながら立ち上がった。


 千子は驚きながらも、とっさに身を引く。


「あああああーっ!」


 そして須藤は叫びながら、急ぎ教室を出て行った。

 そこまで葛藤してたのかよ。


 しかし、こうも簡単に須藤が無力化されるとは……。


「ふん」


 千子はうんざりそうにさらさらした長い髪をかき上げる。


「せっかく私の手駒にできそうだったのに……やってくれたわね」


 柳眉が吊り上がり、刺すような視線をこちらに向けている。


 俺はじりじりと後ずさり。


「今日は晴れてるな……スーパーのセール、間に合うかな……」

「そんなこと考えてる余裕はないかと」


 暗号である。要約すると、「作戦中止。さっさと屋外に逃げるぞ」「了解」となる。


 圧倒的な戦力で畳みかけるという前提が崩れた以上、作戦をゴリ押しするわけにはいかない。いったん策を練り直す。


 千子は、こちらから仕掛けてくるのを待っている。

 じつに優美なたたずまいだった。どこまでも余裕で、まったく鼻につく女だ。


 相手の能力の有効範囲は短いのだろうか。自分のテリトリーの中に敵が入るのを待ち構えているようだ。


 ならば重畳。


 俺と笹露は一気に窓際のほうへ『落下』した。窓の外に展開させた笹露の能力『グレイトフォール』を逃走の助けに使う。


 ここは三階だ。飛び降りるには危険すぎる。

 しかし笹露の能力で落下を和らげられれば着地は可能だ。

 あらかじめ窓のカギは開けてある。


 一旦落下の能力を解除して窓を開ける。


「――『巨人の息吹アメイジングブロウ』」


 ぼそりと、千子の口から魔法の詠唱が紡がれているのが聞こえた。


 直後、外から打つような突風が吹き荒れる。


「!」


 強風にあおられて、俺は尻もちをついた。


 『巨人の息吹アメイジングブロウ』は突風を吹かせるだけの簡単な下位魔法だ。


 不意打ちでなければ、じっとこらえればどうということはないただの強風。


 がんっとグレイトフォールの白球が何かに当たる音。見ると窓に白い球がぶつかっている。

 外に浮遊させていたのが俺同様、風にあおられたようだ。


「! う、動かせない……!」

「球がか?」

「はい……!」


 窓についたまま……ということは、窓に千子の吸着の能力『従属礼賛メイドアバウズ』が発動していたのだ。

 まるでそうなることがわかっていたように、俺たちと対峙する前にあらかじめ準備していたようだ。


「須藤が全部ばらしやがったな!」

「それは違うわ」


 俺がぼやくと千子がそれを否定した。


「『グレイトフォール』の情報は、すでに知っていたわ。そのうえで、戦うのなら危険を避けるため見えない場所に安置しておかなければいけないなんて、考えればすぐわかることよ。あなただってそう考えて対応していたんでしょう?」


 手には『魔弾ガンショット』の凝縮エネルギー。


「くっ」


 苦い顔の笹露がそのへんにあった机を千子へと落下させたのとほぼ同時に、手から『魔弾』が放たれた。

 『魔弾』は空いていた窓から外へ出ると、中空で折り返してこちらに戻ってきた。


 進路には、笹露の白球グレイトフォールが。


 『魔弾』は動けない白い球だけを砕き、窓を割ることなく四散する。


 意識を失ってその場にくずおれる笹露。


「笹露!」


 すべて読まれていた……! 教室まで出向いたのは、あらかじめ窓を含めた外の壁一面に吸着の能力を張っておいたからだ。


 ここで戦闘になることまで読んでいて、すべての対応を考えていたのだ。


 立ち上がろうとしたが、すでに床には吸着の能力が発動していた。

 手や尻が床にくっついて、どう力をこめようと離すことができない。くっついたのが尻だけならズボンを脱げばあるいは脱出ができたかもしれないが……。


「よかったわね、魔法世界に私がいなくて」

「俺が現役ならこんな状況抜けることは造作もないのだがな」

「戻してあげましょうか? 魔力」

「『魔力付与トランスファー』か? 断る。お前の施しは金より高そうだ」

「それは残念」


 千子はあざけるように笑うと、自分の周囲に複数の『魔弾』を展開させた。

 どうやら今度は痛めつけるつもりらしい。


「安心しなさい。目いっぱい手加減してあげるわ。まあ、抵抗しないとすごく痛いけれどね。せいぜい、私のために悲鳴を上げなさい」


 何かないか。


 周囲を観察して、それでも俺は反撃に転じられる手立てを探す。


 教室のドアを見ると、姫鶴がドアのはめ込み窓からぴょこんと顔を出した。


 どうやら今来たところらしい。

 俺は黙ったまま、小さく顎を振って「どこかにいけ」と命じる。


「すいません、遅れましたぁ」


 しかし姫鶴は気づかずにそのままドアを開けて中へ入ってきてしまった。


「――って、あれ? どなたですか?」


 のんきすぎるだろ。わかれよ状況。


「笹露さん! 遼さん、何があったんですか!?」

「逃げろ馬鹿! 入ってくるな!」


 千子としては動けるほうを集中して仕留めようとするはずだ。


 しかもどの範囲で張り巡らせているかわからないが、すでにこの教室には千子の従属礼賛の能力が影響している。


「最後の一人……姫鶴っていったかしら? 小葉菜の能力のくせに覇王の味方についた裏切りも――」


 千子は言いながら振り向いて姫鶴と対峙したが、そのまま言葉が途切れてしまう。


「…………?」


 なんだ?

 どうした?


 千子は姫鶴を見たままフリーズしている。


「あなたがこれをやったんですか!?」

「えっ……姫、鶴、でいいの? き、聞いてたのと、ち、ちが……あれ?」


 覇気が全くないまま怒っている姫鶴に対して、千子はあからさまに狼狽していた。


「姫鶴です!」

「そ、そんな……あ、わ、私、なんで、こんな……」


 次第に千子の顔が紅潮していく。

 自分でも戸惑っていて、何が起きているのかわからない……そんな顔をしている。


「? ……あっ」


 そうか。

 状況を把握するのに少々手間取ったが、思い至った。


 たぶん、きっとそうだ。


「姫鶴、やれ! 笹露と須藤の弔い合戦だ!」


 すぐさま俺は姫鶴に命じる。

 二人死んでないけど。


「はいっ。こんなことをするなんて、許せません! ちょっとこわいけど……私がみんなを助けます!」

「ちょっ、ま、待って……!」

「いけ! やってしまえ!」


 迫力なく激怒する姫鶴。

 自身の中に生まれた感情に戸惑う千子。

 俺は姫鶴に、あきらかにかなわぬ敵に対しての攻撃を指示している。


「ううううっ」


 はじめの余裕そうな表情はどこへやら。

 千子は泣きそうになりながら、向かってくる姫鶴に背を向けて逃げるように走り出した。


 同時に、従属礼賛の能力が消える。


「覚えておきなさいディアボロス! 絶対に次は全力で相手してあげるわ!」


 そして捨て台詞をはいて教室を出て行った。




 いきなり敵が退散した教室内で、俺は声をあげて笑った。


「ははははっ!」

「遼さん?」


 姫鶴は、やはりまったく事情を理解していない。


「こんな、こんな滑稽なことあるか? くくくくっ」


 おそらく千子本人も気づいていないだろう。

 どうやら初めて体験したことのようだ。しかしあの慌てようは、かなり傑作だった。


「えっと、あっ、それより、笹露さん助けないと!」


 切り替えて笹露を介抱しにいく姫鶴。


 俺だけが気づいた。千子の姫鶴を見たときの反応。

 俺はあの表情をよく知っている。


 パターンとしてはなかなか稀だ。

 なにせ女同士、なにせ敵同士。それがなければよくある話。

 それにしたって、わかりやすくいいリアクションだった。


 第一印象で恋に落ちるというその現象。


 つまりは、千子は姫鶴に一目惚れしたのだ。

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