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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第三話 自業自得とひねくれ者の魔法
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3 ブリーフィング

「お前は魔法世界からやってきた覇王ディアボロスとかいうので、そのときにゆかりのあった『本』を探していると? 世界を支配するために?」


 そのへんのカフェに入って、コーヒーを飲みながら須藤は俺に問いただした。


「そうだ」


 俺は堂々とうなずく。

 どうせ信じてもらえない。そんな諦念を抱えながら。


「お前がそんなんなら俺の前世はモテモテの騎士団長とかそんなんだろ? どうなんだ?」

「いや知らんわそんなん」


 思いもよらなかった返答に、俺は軽くひきつってしまった。

 どうして俺が魔法世界から来たって聞いてそんな考えに行き着いたんだ。こいつの頭の中どうなってるんだ?


「遼君の言葉なら、私は信じるし、命令してもらえればなんでもする。今までと変わらない」


 笹露はいつも通りの口調で、驚きもしなかった。


 こいつら……変だと思っていたがやはりかなり変だった。


「普通信じないだろう、そんなこと」


 ぼそりと言うと、須藤は当たり前のように返す。


「いや、信じるだろ。あってもおかしくないどころか、俺がその世界とゆかりのある人物だろ」

「なんでそうなるんだよ! 知らんわ!」


 まあこいつは独りで『七つの大罪』とか言ってるから、信じても不思議ではないかもしれないが。

 なんだろう、まあ、悪くない。


「小葉菜ちゃんは魔法世界とかいうのは何も言ってませんでしたが……私、魔法の存在も知らなっかったし」


 俺の隣に座っていた姫鶴が言った。


「まあ、まだ小葉菜先輩が敵のバックにいると決まったわけではない。この件はもうこれまでだ。どうせ元の世界に帰れる方法もわからないんだからな。それよりも――幸村千子だ」


 幸村千子。襲撃者。魔法使い。

 そしておそらく参照者、のはずだ。


「ていうかお前小葉菜先輩の能力だったんだろ。友達って言ってたぞ。見おぼえないのか」


 俺は頬杖をつきながら、姫鶴を胡散臭い目で見る。


「え、えっと、友達の話題って言ったら遼さんと『ちこ』って人のことくらいで、その人のことは聞いてないです」

「たぶんそれだ。せんこの漢字が千子だった場合、『千』を『ち』と読めばお前の言っている『ちこ』になる。情報はなにかしら聞いてたんじゃないか?」

「んーと、遠い場所に『ちこ』って友達がいると聞いてたくらいで詳しいことは……」

「ふん。その遠くにいるはずの友達が今、こちらに来てあの学園の学生をやっているか。お前とは面識がないとなると、学園に来たのは小葉菜先輩がああなった後か?」


 示し合わせたように、再起不能になった小葉菜先輩と入れ替わるようにしてやってきた幸村千子。彼女が学園の参照者たちを束ねている人物で、バックには『さもんじこはな』という謎の人物がいる。


 ……不本意だが、小葉菜先輩がかかわっていないと考える方が不自然だ。


 しかしどうも姫鶴の記憶があいまいな気がする。

 

 小葉菜先輩がこの件にかかわっているのはほぼ確実として、魔法の存在も知らず、重要な千子のこともほとんど知らない。姫鶴がこの件の渦中にいないはずはないのに。


「……あなた、まだ黙っている情報はない? 少し、知らなすぎる気がするわ」


 笹露も同じことを考えていたらしい。冷ややかな目で、姫鶴を見つめる。


 姫鶴はうつむいて、膝の上にのせていた手でスカートのすそを強く握っていた。


「私、本当に何も知らなくて……」


「……可能性は三つある」


 俺は思索を巡らせながら、姫鶴の代わりに答えた。


「ひとつは、小葉菜先輩が敵だとして、姫鶴の知らないところですべて動いていた場合だ。まあ自分の能力なのにそんなことする必要性があるかどうかといったら微妙なところだがな。

 もうひとつは、『ちこ』という人物が別にいて、千子がでたらめを言っていることだ。小葉菜先輩が何のかかわりもなければ、姫鶴が持つ記憶の不明瞭さも理解できる」


 その場合、小葉菜先輩があんな状態になってしまった事実が宙ぶらりんになってしまうのだが。


「三つめは、姫鶴の記憶に『護封プロテクション』という魔法がかけられている場合だ。『本』のページにかけられているものと同じ、封印のようなものだな。それで特定の記憶だけを封じているという可能性がある」


 ただし、人にかける場合、禁書を封印するよりもとんでもなく高度な術式と魔力の練り上げを必要とする。

 実際、魔法世界の一部でこの使われ方はされていたが……ほとんど使える者はいなかった。


 それともほかの可能性があるのだろうか。

 たとえば、現実を捻じ曲げる能力を持った参照者とか……。


 考えていると、


「あの……」


 姫鶴が深刻な顔で俺を見上げた。


「もし、仮に敵に小葉菜ちゃんがいるとして――ふぐっ」


 もはや皆まで言わずともわかっていたので、俺は姫鶴が言い終わる前に片手で顔の下半分を押さえるようにした。


「何度言わせるんだお前は。お前の意思など関係ないと言ったろう」

「は……はい……ありがとうございます」


 口に出せば、裏切る可能性を聞いた者すべてが抱くことになる。


 この世界の住人は言霊の重要性をあまり理解していないのが面倒だ。


「それで、また仕掛けてくると思うか?」


 俺たちの様子を気にせずに、須藤は訊いた。


「こうして『本』の範囲を調べていると、また邪魔してくるだろうな。須藤、念のため言っておくが、さっき吸収した『魔弾』はむやみに使うなよ」

「わかった」

「だが――あいつは、正面切って戦いに来るような奴ではない気がする」


 そう、仕掛けてくるのなら、もっと巧妙に、周到に、邪道を通ってくるはずだ。

 今回やってきたのは挨拶をしにきただけだ。


「なんでそんなことわかるんだ」

「うむ……なんとなくだ」


 なぜだろう、そんな気がする。


「敵の動向を探る。須藤、俺とお前で千子のことを調べるぞ。姫鶴と笹露は今日できた地図をもとにして、『本』の範囲の中心――本体のありかを探れ。情報は不十分かもしれないが、何かしら手がかりをつかめることもある」


 今日調べた分だけだと、『本』は特別教室棟に潜伏していたことになる。

 三人は頷いた。


「何かあれば報告だ。もし敵と遭遇したら、迷わず逃げろ。これが最優先事項だ」

「もし戦うことになったら、俺がお前を守ればいいんだろ?」


 須藤は腕まくりをして得意げに笑う。こいつ本当にわかってるのかな。


「いざとなったときは頼むぞ。俺が参照者でなくなる事態はどうしても避けねばならないからな」


 そうだ。

 それが一番重要だ。


 俺が以前の記憶を取り戻したのは、『本』に触れて参照者になったあとのことだ。


 参照者としての命を奪われれば、参照者になったときの記憶は能力とともに『本』へ還元されてしまう。


 つまり――俺が覇王ディアボロスとしての記憶を取り戻した、という記録も持ってかれるということだ。


 俺が参照者でなくなったら、俺でなくなる。

 以前の、ディアボロスの記憶がない普通の少年になってしまう。

 これほどやっかいなことはない。


 俺の俺としての命は、折り紙で作った紙風船くらいに脆いものになってしまった。


 ていうかこんなでかいリスク背負いながら手に入った能力が粘土っておかしくないか? 俺だけ不遇すぎない?

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