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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
32/51

幕間

「どうも難しいね、魔法ってのは」


 弾む声の主は、手のひらの上に発生させていた水の塊を水流のようにうねらせながら口を曲げた。


「むうー、おっさんみたいに寝てる熊、みたいな形にしたいんだけどな。ねえ、なんかコツとかあるの?」

「それよりも、次の対策を練るほうが先だろう。永橋行平がやられた。三日月勇はうまく逃げおおせたようだが」


 重い声の主ははしゃいでいる相方にむけて水を差すように言う。


「ちこがさりげなく助けてくれたからねー」

「お前の友達の幸村千子ゆきむらせんこか。奴も余計なことをした。永橋行平も三日月勇も、少々度し難かった。そのまま戦闘不能になっていればよかったものを」


 二人がいるのは、やはり広く薄暗い室内だった。閲覧席が一つしかない、だだっ広い図書館のような場所である。そそり立つ本棚で壁が見えぬほどで、知らない者が紛れ込んだらたちどころに迷子になりそうな空間であった。二人がついているアンティーク調テーブルは、相変わらず闇に紛れるようにして置いてあって、やや不気味な印象だ。


 弾む声の主が、水の塊を消失させる。


「そんなこと言わないの。まーでも、ちこがやる気になっちゃったから、あとは勝手に動いてくれるんじゃないかな」

「…………しかしな」


 弾む声の主とは対照的に、重い声の主はいまいち乗り気ではなかった。


「千子は人格に少々問題があるだろう。それに、我々の指示をほかの参照者に伝える中継ぎ役は彼女しかいない。失ったら痛手だ」

「んー、でもあたしたちが止めても聞かないよ、たぶん。それに――」


 弾む声の主はテーブルに置いた本のページを繰りながら、微笑する。


「あたしと同じ素質を持っているんだから、驚かせるには十分だと思うよ」

「魔法が使えるという点か?」


 重い声の主はさして驚きもせずに答えた。


魔法世界ウェイミリカじゃお前や千子みたいなやつはごろごろいた。奴がそんなことで驚くとも思えんし、むしろ自分の悪事のためにあらゆる手を使って利用しようとするだろう」

「遼君てかディアボロスさんのことを語るときはずいぶん楽しそうだね」


 重い声の主の髪が、ざわりと震えた。長くたおやかな銀色の髪の毛が怒りに揺れているのであった。


「奴に対して肯定的な感情は一切ない。二度とそんなふざけたことを口にするな」


 静かな怒りを内包した、重みのある声。その主の、右側だけ赤い瞳が燃えるように弾む声の主を睨んでいた。

 弾む声の主は動じない。


「でも、そうだよ。普段より饒舌になってるし、生きがいを見つけてる感じ」

「…………」

「わかったよ、ごめんね――カグラ」


 無言の圧力に、弾む声の主は持っている本で自分の顔半分を隠した。少し困っている様子だ。


「奴は『鍵』を奪い、所持している。様子見などと、悠長なことは言ってられない」


 カグラと呼ばれた重い声の主は、足を組んで訴えるように言った。

 それから、おもむろに掌に魔力を集中させる。


「水の魔力因子よ――」


 たちどころに現れた水の塊が、何か二足歩行の動物のような漠然としたシルエットを形作った。


「水の魔法で作った、おっさんみたいに寝ている熊だ」

「えー、似てない。なんかもにょもにょしたのが浮いてるだけだよ。センスないよ、芸術的なセンスが」

「そんなもの魔法に必要ない」

「あるよ!」

「こんな遊びにかまけている時間があるなら、覇王討伐の『計画』を早く進めてもらう」

「あたしの『計画』は順調だよ」

「どこがだ?」

「どこもかしこも」

「……勝手にしろ」


 ため息が聞こえる。

 朗らかに笑う弾む声の主に、今度はカグラの方が折れた。

次回、第三話の更新は二週間ほど後になるかと思います。ご容赦を。

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