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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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13 兎にも角にも:鍵の在り処を

「…………」


 うまくやりすぎだよぉ。

 「うまくやる」っていうか「うまく殺る」って解釈しちゃってるよぉ。


 と――『銀の楔』が行平を貫いた、その瞬間。


 貫かれた行平の右胸がほのかな光を発した。


 『銀の楔』の能力であるところの鈍い銀色の光ではない。刺さっている『銀の楔』もろとも、細い光の筋となっている。こんなの『銀の楔』の能力にはない。


 光の筋は、やがてはじけるように霧散した。


 右胸を刺し貫いたということは、彼の目に見えぬ参照者としての核も破壊したということである。

 これが参照者としての命を奪うということなのか。


「よくやった笹露。しかしこれで行平の能力が消えたということなのか?」


 行平は気を失って倒れている。外傷は壁にぶつかったときの打撲だけで『銀の楔』による刺し傷は消えていた。


「……まず間違いはないです。この前永橋たちが仕留めた参照者と同じ感じだったから」

「ふむ。ではこれで脅威は去ったか」

「そんなことより、その……」


 笹露はもじもじしながら俺のところへ寄ってくる。俺がノーマルなイケメンなら頭でも撫でてやるところだが、そんなものをご褒美にするのは彼女の望むところではないだろう。


「まずは行平を縛る方が先だな」

「必要ありますか?」

「念のためだ」


 行平を縛っていてわかったが、胸の傷どころか『銀の楔』が刺さったはずの服の破れまでなくなっていた。


「…………?」


 まるで能力にかかわった痕跡そのものがごっそりと消えてしまったかのようだ。


 行平の手足を縛りあげると、今度は笹露の足を縛りにかかる。


「縛り方とか知らんし足縛ってるだけだが、こんなんでいいのか?」

「……もっと強くてもいいです」


 結構きつくやってるよ?


「あとお前の方が一応先輩なんだから人前で様付けや敬語はやめろ」

「……遼様がそれでいいのなら」


 なぜか仲間を縛りあげているということに疑問を持ったら負けだろう。


 だが笹露は少し物足りなさそうだ。


 うん……しょうがない、よくやってくれたしこいつの望むとおりにしてやるか。


「なにを待っているんだ?」

「……えっと……その」

「図星か、このほしがりめ。縛ってもらってさらに言葉でも責めてほしいなんてどこまでも奴隷気質だな。縛られるのがそんなにいいのか? そんなことで喜ぶのはお前くらいだ。この変態が」

「あ……はい……もうしわけありせん……」


 それです、みたいな顔で頬を染める笹露。


「こちらも終わったぞ――ってなんで氷上さんもふんじばってんの!?」


 教室に入ってくるなり、須藤は飛びあがった。


「知らんわ! しかし無事にちゃんと戻ってくるということはどうにかなったようだな」

「ああ。まあ、逃げられたけどな」

「あ?」


 頭をかきながら笑ってごまかしている須藤に、俺はすごく威圧的に声を上げた。ちょっと耳を疑うぞ、今のは。


「なんなの? 小夜の白猫新しくストックしてたよな? 笹露の能力を吸収した分も残ってたし、なんでそれだけ引き出しあって仕留められないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「いや、なんか思ったより素早くてさ。動き止めたんだけど、抜けられちゃった」

「ふむ……まあいい。この人数なら反撃に来られても返り討ちにできるからな」

「すまんな」


 言いながら、須藤はきょろきょろと周囲を見回す。


「姫鶴さんは?」

「出てくるタイミングがわからずにまだ隠れてる」


 俺が答えると、教卓から姫鶴がぴょこんと顔を出した。


「そっ、それわかってるなら呼んでくださいよう!」

「笹露、『鍵』はどこにある? もしくは誰かが持っているのか?」


 姫鶴はいつも通り放っておく。


「そこの本棚」


 縛られて横たわっている笹露は顎で在り処を指し示した。

 人前で敬語や様付けをやめるように言ったが、その通りにしてくれているようだ。


 しかし、やはり教室内に隠してあったか。


「本当か!?」


 須藤は早速本棚に入っている本を調べはじめた。


「俺たちだって本は調べたぞ。何も細工はなかったはずだが?」


 笹露と戦う前に、俺と須藤が一冊一冊調べたのだ。何も怪しいものはなかった。


「細工があるのは本棚の方」

「……ふむ、趣旨に合わない本でも関係なく詰め込んで、隙間なく本棚を埋めていたのはそのためか。――須藤、そこの本をすべてどかせ。改造された隠しスペースみたいな部分があるはずだ」


 俺はつかれているので全部須藤にやらせる。


「私も手伝います!」


 戦闘に参加していないため元気な姫鶴も須藤を手伝っているが、


「ああああっ」


 どかして傍らに山積みにしてあった本を肘で倒してしまって慌てていた。鈍くさいやつ。


「あったが、鍵がかかっているみたいだ」


 やがて須藤から報告があった。


 俺も見てみると、木製の本棚の中心に、かなりわかりにくいが四角い仕切りがある。だが穴のように偽装した小さい鍵穴があり、指だけでは開かない仕様になっている。


「遼君……私の胸元をまさぐると、仕掛けの鍵が入ってる」

「縄ほどくから自分でやってくれ」


 やや複雑そうな笹露を無視して、俺は縄をほどいてやる。


 笹露に任せると、ネックレスのように首から下げていた爪楊枝の半分もないような小さな鍵を使い、隠しスペースを解錠した。


 入っていたのは、赤い花の刺繍が入った小さな巾着袋だった。


「この中に鍵があるんだな?」

「――待って」


 須藤が触ろうとすると、笹露が静かに告げた。


「……ただで開けることはできない。三日月の『紅花輪くれないかりん』の刺繍がしてある」

「この赤い花の刺繍のことか。三日月勇の赤い糸の能力で作ってあるということか?」

「そう。これは反応型の罠で、触れると刺繍の赤い糸がその者を襲い、縛りつける仕掛け」


 笹露を倒しただけだけでもダメ、勇や行平を倒しただけでもダメ、という二重のセキュリティなわけか。


「須藤」

「馬鹿の須藤……あなたなら開けることができるわ」


 俺と笹露は同時に言う。「ああ」すでに須藤は『銀の楔』を自分の腕に刺していた。


 須藤は光る腕で巾着の刺繍にちょんと触れる。

 刺繍をきれいに消し去って、いよいよ巾着の中に入っていたものを取り出した。


 それは、真鍮でできた小奇麗な鍵だった。


 鍵の表面には、幾何学的な趣向を凝らしたような独特の意匠の模様が刻まれている。模様の中には文字や記号も織り交ぜられていて、かなり複雑だ。


 俺の思った通りだ。


「鍵に刻印……やはりあの『本』には『護封プロテクション』がかけてあるようだな」

「プロテクションってなんだ?」


 聞きなれない固有名詞が出てきたのか、須藤や姫鶴は首をかしげる。


 模様の一部は、間違いなく魔法陣の術式だ。封印された『本』のページを閲覧するには、この鍵に記された魔法が必要になる。


「とにかく『本』と『鍵』が不思議な力で保護されてるってことだ」

「なるほど」


 あまり理解していない様子で須藤は頷く。

 ただ、この鍵に記されている開錠の魔法がどんな術式で刻まれているかは、具体的にはわからない。


 刻まれている彫刻がすべて魔法の術式ではないのだ。

 組まれた術式以外はただのダミーの彫刻で、真と偽がごちゃ混ぜになって鍵に刻まれている。

 一種の暗号である。本物とダミーの刻印の見分けはまったくつかず、術式の解析はほぼ不可能だ。見破るには、『鑑識眼』と呼ばれる魔眼か、あるいはそれ相当の魔法がいる。


 術式を解読して『鍵』を複製することはできない。


「待て須藤。光ってる方の腕でその鍵を触っちゃいかん」


 俺は『銀の楔』を刺したまま鍵を触ろうとする須藤の手をつかんで止めた。


「……なんでだ?」

「刻印がお前の能力で消えたらどうするんだ」

「ああ、そうか。って消えるか? 完全に刻み付けられてるけど」

「『刻印魔法アスキカタスキ』の魔法陣だって立派な魔法だからな。お前のそれは魔法だって無効化できるはずだ」


 『本』が魔法世界の産物である以上、おそらく魔法を吸収するのが本来の使い方だろうしな。


 とにかく『鍵』が手に入った。あとは潜伏している『本』を見つけ出すだけだ。


 もはや長居は無用だろう。


「逃げるのはいいんだが、この教室の惨状をどうにかしなくていいのか?」

「せめて片づけていきましょうよ……」


 須藤と姫鶴から意見があがる。


「そこにノビてる行平がいるだろ?」


 つまりこいつが一人で暴れたことにすればいいのだ。

 素行が悪いなら教室内を破壊していたって不思議ではない。


「鬼だな」

「気絶してるこいつの縄を解いて置いていくだけだ。解釈するのは駆け付けた先生方であり、俺たちに他意はない。いいな?」


 勇の反撃が来るかもしれないし、早々に退散しなければならない。


 行平の縄をほどいて、隠しスペースだけはばれないように本で隠しておく。


 撤収の準備を進めていると、笹露がスマートフォンを手にしながら、


「――『さもんじさん』から連絡がきた」


 ぽつりとつぶやいた。


「?」

「私たちに『鍵』と創韻倶楽部の管理を任せていた人物……といっても、会ったことないし顔とかも見たことがないけど」


 さもんじさん――左文字さん?


 頭の裏をもやもやしたものが突き抜けるような感覚だった。


 俺は絶句したまま、疑心で鈍くなった思考力を戻そうとするが、混乱から抜け出せない。


「創韻倶楽部だけじゃない、ほかの参照者たちもその人物がまとめ上げているって言われてる。こうしてたまにメールで連絡がくる。といっても基本は一方通行だけど」


 見ると、なぜか姫鶴の顔色もよくない。手や唇がわなわな震えながら、信じられないって顔をしている。


「……もうばれてるわ、私が裏切ったこと。遼君と手を組むのをやめろって忠告がきた」


 左文字など、こんな珍しい苗字なかなかない。ただ、探せばほかにもいるんじゃないかって感じの名前。


 しかし――


 俺が思い浮かべてしまうのは、ただ一人の人物だけだ。


 左文字小葉菜さもんじこはな先輩……彼女には無視できない謎がある。

 入学してからずっと先輩を探していた俺にはわかる。


 学園内にいるはずの彼女のことを――生徒たちは誰も知らないのだ。


「知られているのは二つの通り名だけ」


 笹露は混乱する俺に向けて、静かに告げた。


「『さもんじこはな』、もしくは『魔法使いのさもんじさん』……それがこの学園の参照者をまとめ上げている人物よ」

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