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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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12 部下がすごく強いパターン

「うおっ!?」


 黒いマフラーをして『銀の楔』を構えていた俺に一斉にかかって来た永橋行平は、突然足を滑らせて派手にすっころんだ。


「……元陸上部だから自分の能力と相性がいいとはどういうことだ?」


 その意味を何通りか考えたが、手掛かりが少なく断定できるだけの材料がなかった。


 この前は二人だったが、今度は五人だ。


 身体能力に関連した何か特性があるのだろうか。

 分身も今は消えていて一人だ。


 笹露に詳しい説明をしてもらう時間がなかったのがおしい。


 まあ関係ないか。


「この床、凍って……?」


 机に激突した行平が、痛みにうめきながら異変に気付いた。


 俺がペットボトルの水で床を濡らしていたことに、こいつは気付かなかったようだ。

 穴の開いた二リットルペットボトルに粘土の能力で蓋をして横向きにして置き、作戦決行と同時に能力を解除して床に水を漏らし、笹露に凍らせてもらう方法だ。直接手は触れていないから気付かないのも無理はないか。

 虚を突くための罠として用意したが――てきめんに効果があったようでなによりだ。


 ……しかし須藤は大丈夫だろうか。


 俺がお膳立てしてやった状況で負けるとは言い難いが、あいつ弱いし馬鹿だから俺の策の意味を理解しているかどうか微妙なところだ。


 さておき、


「何か予期せぬ事態でも起きたか?」


 俺は行平に皮肉を言ってやる。


「お前――須藤じゃないな!?」


 俺の声を聞いて表情が変わった。


 俺はあの時「では、あとは任せたぞ須藤。手筈通りにな」と自分で言って自分で頷く演技をしていた。そこになんの意味もないと考えるほど、こいつは馬鹿ではないらしい。


「ようやく自分がハメられたことを認識できたようだな」


 俺は言いながら、うさぎの面を外してみせる。ついでに黒いマフラーもかっこ悪いから外す。


 参照者の能力には相性の善し悪しがある。それは十人十色に様々な特性を持っている参照者の能力にとっては避けられない問題だ。


 須藤がいつも行平にやられているのは須藤の能力が行平の能力と相性が悪かったせいだ。増えた一人を楔で吸収しても吸収しているあいだにほかの分身が須藤を攻撃する。

 行平と勇はそれがわかっていて、毎回須藤の対処に行平を当たらせていたのだろう。


「騙しやがったな!」

「騙した? お前らが今までやっていたことを俺もやっただけだ。戦う前に読み合いを勉強した方がよかったんじゃないか? もっとも、勉強してきたところで俺に勝てるとは思えんが」


 それからおもむろに椅子に座って、足を組んで余裕の表情をしてみせた。


 ……じつは、立っているのがやっとだった。


 俺はすでに能力の連続使用に耐えきれず、疲労が困憊を極めていた。やっと座れて、俺は安堵した。


 気を抜いたら寝そう。


「笹露」


 行平を眺めながら、俺は言った。


 前の方に回した両手を縄で縛られたままの笹露が、涼しい顔ですっくと立ち上がる。


「氷上、まさかお前……」

「…………」


 剣呑な顔になっていく行平を笹露は睥睨していた……が、それ以上は動かない。


 俺の指示を待っているのだ。彼女は、期待している言葉が俺の口から紡がれるのを待っている。


 ならば命じよう。


「やれ。うまくやれれば褒美を取らす。俺の望みが、お前の悦びだ」

「はい、遼様。おおせの通りに」


 笹露の能力は白い球で落下を自由に操ることができる。たとえ全身縛られていようと攻撃はできるし、自分自身に落下の能力を使えば疑似的な移動も可能だ。


 彼女にとって拘束されているというのは、ディスアドバンテージになりえない。


「……これが終わったら……遼様にもっと縛ってもらう……!」

「それご褒美じゃなくない!? なんか開いちゃいけない扉が開いてませんか!? あと人前で『遼様』はやめよう!」


 ディスアドバンテージどころかアドバンテージ(意味深)になってるけど、細かいこと気にしたら負けだ。


「くそっ」


 行平は机に掴まりながら、どうにか立っているだけだ。とても戦える状態ではない。


 床に水をこぼして、笹露の『グレイトフォール』で気温を零度以下に落としてもらった。床は今アイススケートができるんじゃないかってくらいツルツルで踏ん張りなど効かない。


 その中で、落下という足を使わない移動手段を有する笹露だけが、唯一まともに動ける。


 須藤の場合と違って、俺が彼女にしてやれるお膳立てはほとんどない。


 勝負は、もうすでについているのだから。


「うおあぁっ!」


 行平が周囲の机や椅子と一緒に、教室後ろ側の壁へと落下していく。


 背中をしたたかに打ち付け、身動きが取れなくなったところで、須藤が置いていった『銀の楔』が行平に向かって落ちてきて――


 きれいに右胸を刺し貫いた。

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