11 能力者撃退戦:ふたり
※三人称視点
創韻倶楽部の部室へまっすぐに駆けていく、二人の男子生徒があった。
「カーテンで外側から見られないように遮ってある。侵入されてるみたいだな」
眼鏡をかけた小柄な方――三日月勇が相方の永橋行平に告げる。
「途中いたでかい白い猫は、何日か前に見たことあるな。……また須藤か。あいつも懲りねえな」
日焼けした方――永橋行平はうんざりした様子で舌打ちした。
迷いはない。
「俺たちの教室で何やってんだコラァ!」
行平が勢いよくドアを開けると、そこにいたのは三人の人物だった。
一人は氷上笹露。両手を縛られて椅子に座らされている。
それを囲むようにして、うさぎのキャラクターを模った面をつけた者が二人。
うさぎの面をつけた人物だが、一人はわかる。黒いマフラーに、『銀の楔』を片手に持った人物。顔は隠しているものの自分を隠そうともしない性格。
「では、あとは任せたぞ須藤。手筈通りにな」
――と、聞いたことのある声。これを聞くのは二度目だ。
この前襲撃してきた粘土のやつと同じ声である。
黒いマフラーをした方のうさぎの面は、その声を聞くと頷いた。
相手はすぐに行動に移った。土の短剣を持ったうさぎの面が駆けだしたのだ。
――ただし、自分たちのいる出入り口とは別の出入り口に向かう。
「一人で逃げる気か!?」
反応しきれないでいると、あっという間に土の短剣を持った人物は教室を出ていく。
正直、笹露が人質に取られていようがいるまいが、相手が動いたならこちらも動くつもりだった。
「俺がいつも通り須藤をやるから、勇は逃げた粘土のやつだ。『鍵』を奪っているかもしれない。逃がすなよ!」
「ああ、わかった」
行平に言われ、勇は逃げた粘土の主の背中を追って駆けだした。
行平は――教室内にとどまった黒いマフラーをした人物と対峙する。
「だからうさぎの面する意味あるのかよ……バレてんぞオイ須藤ぉ! 馬鹿にしてんのかぁ!?」
そしていつものように挑発をする。
「お前の能力は俺の能力に勝てないって何度思い知ればわかるんだ!? 俺は一人じゃねえ。二人でも三人でもねえ、もっといっぱいいる。一個体しか対応できないお前の能力じゃ、勝ち目はないんだよ!」
黒いマフラーのうさぎは、ゆっくりと『銀の楔』を構えた。
行平は駆けだす。
瞬間――行平自身の人数が、五人に増えた。
彼の参照者としての能力は、自分自身の速度が上がるほどに、人数が増えていくという分身能力だ。歩けば二人に、軽く走れば三人に、全力で走れば五、六人に増える。
「俺は元陸上部だからな! 自分の能力……『ストッド・ノット・スティル』とは相性がいいんだよ! 今日こそ仕留めさせてもらうぜ!」
うさぎの面は『銀の楔』を構えたまま動かない。
五人に増えた行平は、取り囲むようにして四方八方からうさぎの面に襲い掛かった。
「しかし氷上が捕まったか……やっかいだな」
粘土の人物の背中を追いながら、勇が冷静につぶやいた。
「おいお前! 今投降して氷上を開放するなら許してやるぞ!」
逃げるうさぎの面に向かって忠告したが、聞く耳持たぬようだ。
「ああ、そうかい――じゃあ、いいんだな? 俺の『紅花輪』が奪っても!」
勇は立ち止まって、自身の指先を逃げる相手に向ける。
自分の能力は、ある程度飛距離を伸ばせる。相手の粘土の能力の射程外から攻撃することも可能だ。
指先から赤い糸が五本猛スピードで飛び出し、逃げる人物に追いすがる。
――ここで、逃げていたうさぎの面が振り返った。
「!?」
反撃すると思っていた。しかし相手は、握っていた土の短剣をあろうことか手放したのであった。
そして代わりに、鎖付きの銀色の楔を出現させる。
「なんで、お前が須藤の能力を!?」
腕にさすと、腕が淡く銀色に光り――迫ってきた赤い糸を五本とも呑み込んだ。
その人物は、「……なるほどな」何かに納得したように頷いた。そして銀色に光っている腕から、たった今呑み込んだ赤い糸を出現させ、勇に向けて放った。
「なんっ――だって!?」
赤い糸は動揺する勇の手足を縛りあげる。
「情報戦の最善は『相手に自分たちの情報を与えない』じゃなかった。――『相手に間違った情報を与える』、だったのか」
その人物は、ようやくうさぎの面を取った。
「お前……須藤!」
それは勇や行平がよく知っている人物――須藤薫だった。
勇は騙されたことに気付いて歯噛みする。
自分が追いかけていたのは、粘土の能力者ではなかったのか。
「背格好は似ていなくもなかった――けど、ちゃんと見れば顔が隠れていても見分けがつくくらいだ。でもその人物の見た目や特徴を入れ替えたら――間違えるのも無理はないか。で、念押しとして自作自演の小芝居……」
「くっ!」
出ているのは赤い糸だけではない。勇の体が次第に浮いていく。――笹露の落下の能力だ。
それだけではない。廊下の気温が低くなって、赤い糸が凍り付いている。凍結はそのまま勇の手足にまで及び、完全にその場に縛りつけた。浮いているのと拘束されているので、その場から動くことができない。
「そして狭い廊下なら赤い糸の指向性は狭まり、対象にほぼまっすぐ向かっていかなきゃならなくなる。来るのが常に一方向からなら、対応するのもたやすい……あいつの言った通りだな」
「だましたのか……片方の素性が割れていることを逆手にとって……」
「ああ。あいつは、俺がいつも永橋行平に負けているという情報から、行平が常に勝ちパターンで対応してきていることに気付いていた。――能力同士には、相性の善し悪しがあった。だからここでも、行平が俺の対処に当たると読んで、うさぎの面を使った入れ替わり作戦で相性の悪さを回避しようとした。俺のマフラーをあいつが身につけて、俺が粘土の短剣を持つことでな。この前、土の能力を見せたのもわざとだ。ある程度の予備知識があったほうが勘違いさせやすい」
手放された土の短剣は、まるでただの粘土のように床に激突してつぶれている。――いや、あれは本物の粘土細工……ダミーだろう。
「うさぎの面も、土の能力を見せたのも、周到に意味があった。そして……全部あいつの思惑通りになったわけだ」
須藤の能力の開放は終わらない。今度は白い巨大な化け猫が一匹、二匹、三匹……六匹出現した。勇の顔がみるみる引きつっていく。
「嘘だろ、おい……」
「嘘って、小夜から能力を補充させてもらっただけだ。大変だったんだぞ、学校まで連れてきて『銀の楔』の中に入れるの」
「なんだよそれ。多すぎる、そんなの、こんな、一度に……」
「俺ならできる。俺は『七つの大罪』の一人、須藤薫だ!」
理由になっていないし、知ってる。言い出せずに、勇は須藤のでたらめすぎる能力に、完全に気おされてしまっていた。
――化け猫どもが、唸り声を上げながら一斉に動く。




