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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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9 言葉責めしながら女の子にひたすらバニラ味のアイス食べさせるだけ:その2

「んうっ……んんっ、うぅ……ぷぁっ」


 何本目になるだろうか、笹露はバニラアイスをこなれた感じで平らげた。


「はぁ……はぁっ……」


 息をつく笹露を見下ろしながら、俺は小さくうなずいた。


「どうだ? 安いアイスのうまさがわかってきただろう」

「はい、と言えば終わらせてくれるの?」

「だめだな」


 そんな態度ではな。

 俺はまた冷凍庫からアイスを取り出した。


 封を開ける。


 口元へ持っていくと、笹露は自然に頭を近づけてくる。


「あむっ、ちゅるっ……」


 あまり嫌がる顔をしなくなってきたことに、本人はまだ気づいていない。食べることが当たり前になってきた証だ。


「んぅ……ん……んぐっ」

「そうだ、いいぞ。噛まずに舌と唇でちゃんと味わうんだ――」


 おっと、危ない危ない。もうちょっと粘土の能力を意識しなければな。


「自分から食べに来るなんてずいぶん食い意地が張っているじゃないか。豚みたいだな」

「――あなたが無理やり食べさせているんでしょう」

「無理やり食べさせている覚えはないが? 食べるか否か、選んだのはお前だ。お前が自ら望んで食べているんだよ」


 笹露の顔には憔悴の色が浮かんでいる。反抗の言葉にも心なしか力がない。


 こんな状態で連続して嫌いなものを食べさせられているのだ。しかも水っぽいものだから腹だってもたれる。誰だって元気がなくなってくるだろう。


「それに返事が違うだろう?」

「……わざわざ食べさせていただき、ありがとうございます、遼様」


 棒読みだがいい返事だ。


 ところで俺もかなり疲労困憊だった。


 なぜなら土の能力を相当な時間、連続使用している。自分であらかじめ調べていた能力の連続使用の限界時間をゆうに超えていた。


 くっそおお普通の縄とかで縛ればよかったぁっ!


 表面上は涼しい顔を装っているが、俺は心の中でダラッダラに汗を流していた。

 超休みたいんですけど。


「口を休めるな。ちゃんと食べろ」

「……はい。申し訳ありません」


 言ってから、笹露はアイスを食べるのを再開する。


「……うぅ、なんれ……なんれ、ぢゅるっ、わらひが、こんな、んぶっ」


 いろいろと感極まったのか、笹露はアイスを頬張りながら涙を流した。


 そしてすぐにアイスを完食する。最初のころと比べると格段に食べ終わる速度が速くなっていた。


「創韻倶楽部にいるだけで、こんな、みじめな思いを……」


 口から溶けたアイスと涎を垂らしながら、笹露はぼやいていた。


「やめないのか? 創韻倶楽部」

「簡単には、無理。参照者も、やめないとだめ」

「ふむ、それは難しいな」


 笹露にとっては、難しいのだろうな。


「……私は、わっ、私は、本当は『鍵』なんて守りたくなかった! ただひっそりと創作活動をしていればそれでっ」


 冷静な彼女には似つかわしくないような、荒々しい声だった。涙の粒がしぶきになって床に落ちる。


 ――ようやく聞けた。これが氷上笹露の本音か。


 ならばこちらも本音をぶつける必要があるな。


「思ったことをすればいい。何をためらう必要がある?」

「そんなことできるわけが――」

「創韻倶楽部にいたまま、『鍵を守る』という使命だけを放棄すればいいだけだ。お前が『鍵』を守るというのは、果たして絶対的な義務か?」

「でも、それが創韻倶楽部の伝統で、守るのをやめるなんて……」

「俺ならお前の望む通りのことをしてやれる」

「え……?」

「そのままの状態で――お前が創韻倶楽部にいながら俺の側につくなら、俺がそんな納得いかない状況も変えてやる、と言ったんだ」

「俺の、側……?」


 彼女にとって俺はまだ敵だ。だからこそ、あまりに唐突で、言っていることが整理しきれていないらしい。

 笹露は涙を流すのも忘れ、目を丸くしている。

 俺はさらに付け加える。


「明日になれば、いつもの日常に戻してやる。だが、本当にそれでいいのか? 考えろ。お前の不満はなんだ?」

「私の、不満……私の、居場所……」

「ちゃんと言うんだ。自分の口で俺に伝えろ。お前の不満はなんだ?」

「……私には、今の創韻倶楽部に、居場所がない。居心地が、悪い……」

「『鍵』を守るという正しいかわからない義務だけが残りながら、自分はただ一人、支えあう仲間もおらず孤立している。仲のよさそうに騒ぐ男二人を居心地悪く横目に収めるだけで。そうだな?」

「……そうよ。昼休みはいつも一人で、クラスにもなじめないし……安寧が、学校のどこにもない……」

「本当にそんな日常に戻りたいのか?」


 粘土の硬度の調整は、今は度外視する。たぶん笹露も拘束されていることは、今は忘れているだろうから。


「俺ならそんな日常を変えてやれる。俺にしかできない。なぜなら俺は、『鍵』を手に入れるために創韻倶楽部に戦いを挑んでいるのだから。当然、行平と勇は排除すべき対象だし、逆に『鍵』を守るという活動以外の活動に興味はない」

「…………」

「今の創韻倶楽部は一度破壊され、根本から作り直されたほうがいい。そう思わないか? 破壊した後なら、お前が望む通りの創韻倶楽部にだって作り直せるだろう」

「私……私は」

「お前がまじめなのはよくわかった。だが、今のままではいずれうまく立ち行かなくなるぞ。……選べ。あの創韻倶楽部で今までのままずっとやっていきたいのか、俺と一緒に今の創韻倶楽部を破壊して新しい世界を見たいのか。すぐに選ばなくていい。今日中に答えを決めろ」

「…………!」


 寝耳に水って顔。


 やっと俺の言いたいことが理解したようだ。


「そうだよ、俺はお前に寝返れって言ってるんだ。手のひらを返せばいいだけだ。それだけで望むものが手に入る。簡単だろう?」


 俺は何事もなかったように冷凍庫からアイスを取り出し、笹露の耳元で囁いた。


「俺がお前の居場所を与えてやる。お前のことが必要ないなら、俺はこんなところでこんなことしていない。少なくともあの二人よりはずっとお前のことを必要としている。それを頭に入れておけ」

「遼、君……」

「遼『様』だし、お前はただの食い意地の張った雌豚だ。――無駄話は終わりだ」


 再開といこう。


 封を開ける。


 笹露が顔を近づけてきたところで、俺はさっきまでと違って乱暴にアイスを口の中に突っ込んでやる。


「んむうぅっ! んぐ……ぁ……ぅ、じゅるっ」


 面食らった笹露だったが、しかし吐き出さずに全体を咥えきる。


 うむ、ちゃんと吐き出さないって言いつけを守っているな。


「あ、あれ、なんれ……なんか……」


 変化があった。


 腹を割って話して安心したからなのかどうなのか、表情が和らいでいる。


 さっきまでは、嫌な顔はしなくなったものの、いまいち乗り気ではなかった。

 しかし、今は違う。いつもの値段の高いカップアイスを食べているときと同じような……表情は相変わらず薄いが、それでもアイスを口にするのを楽しんでいるような感じ。


「うまいか?」

「お、おいしいわけが、ない……?」


 言いながら、顔はまずそうではない。

 本来ならおいしいですと言い直させるところだが、ここはそのまま進める。


「ほう……そのわりにうまそうにしゃぶるな」

「そっ、そんなこと、ない」

「まずいなら、もうやめるか?」

「え、そ、それは……」


 困惑したような表情。しかし自分で自分の変化を許容したくないからか、言葉を切っている。もう少しだな。


「嘘だ。しっかり味わえ」


 俺はまたアイスの抽挿を開始した。


「っぷぁっ……ふ……んぅ」


 完食はあっという間だ。


「いいぞ。よく食べたな」


 ――しかし変化は俺のほうにも現れた。


「ぐふあっ!」


 やせ我慢していた俺の全身から、一気に汗が噴き出した。


 ――――っ。


 視界が暗転しかけて、まっすぐ立っていられなくなる。


 立ちくらみだった。ふらつきながら、俺は膝をついた。


「ちょ、ちょっとタイム」

「……?」


 もう無理。限界。


 やはりだめだ。もたなかった。

 俺は笹露を縛っていた能力を消して、その場に横になった。


 くっ、もうちょっとで……もうちょっとで笹露を説得できそうだったものを。これ以上続けたら確実に倒れる。誰ぞリゲインを持て。


「ぜぃ……ぜぃ……」


 いや、よくやったよ、俺も。相当な時間粘土を持続させた。自分の限界を軽く超えていた。今まで連続使用に耐えられるのは一、二時間ほどが限度だったが、自己記録を一時間以上更新した。


 もうすぐ放課後である。


 俺がここでダメでも、いずれやってくる須藤と姫鶴がなんとかしてくれるだろう。


 埃やチョークのにおいが混じった薄汚い床に横たえながら、俺は笹露の反撃を待った。


「…………」


 しかし反撃は一向にやってこない。

 どころか、笹露は拘束されていた椅子から、一歩も動いていない。もう拘束は解けたというのに、いまだ縛られているかのような体勢。


 座ったまま、手足をもじもじさせながら、どこかいじらしい視線を俺に向けていた。


「あの、そろそろ……」


 ん?


「そろそろ、タイムを終えて、再開を……早く……私にアイスを食べさせて……」


 ――俺は全身に鞭打って立ち上がった。


 ふははははっ、堕ちたな!


 自分で食え、なんて命じない。仕上げは俺がやらねばな。


 俺は再び土の能力を出現させると、すぐさま笹露の両手を拘束した。


「食べさせて? 断る。断じていやだ」


 冷たく言い放つと、笹露は絶望に顔をゆがめる。


「そんな……」


 俺はそんな笹露に顔を近づけ、頬を撫でた。姫鶴の吸いつくようなもっちりした頬とはまた違った、さらさらと滑らかな感触。


「まだ立場がわかっていないようだからな。この俺に欲しいものをねだるなら、相応のお願いの仕方があるだろう。できるな?」


 俺は意地の悪い笑みを浮かべた。笹露は恥ずかしげにうつむく。


「たっ、食べさせてください……」

「だめだ」

「お願いします。もっと、アイス、食べたいです」

「だめだ」

「あぅ……わっ、わざわざ買ってきていただいた遼様のアイスを……どうか……私の、いやしい口の中に、お恵みください……お願いします……」


 幼げな顔立ちが、たどたどしい台詞とともに切なく軋んだ。


「まあ及第点だな。この俺を使うのだ、身に余る栄誉だ。とくと味わえよ」

「はいっ、ありがとうございまがぼっ」


 無理やりアイスを食べさせられて、笹露の表情が幸福そうなそれに変わった。

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