8 言葉責めしながら女の子にひたすらバニラ味のアイス食べさせるだけ
「う――けほっ、けほっ!」
派手にむせ返って、笹露はアイスを吐き出した。
円柱形の、よくあるバニラ味の棒アイスである。十本三百円ほどだが、スーパーで安売りしていれば三百円をゆうに切る。
このなんの変哲もないバニラアイス、笹露はかたくなに口にしない。食べているのはいつも、値段の高いチョコレート味のカップアイスだ。まさか吐き出されるなんてな。
「ちゃんと食べろ。汚いな」
「そんなもの私の口の中に入れないで……!」
予想していたとはいえ、かなり過剰な反応だった。
ていうかアイスごときでそこまで拒否る?
「言葉遣いも礼儀もなっていない。『むせてしまって申し訳ありません』だろう? ……それに俺に何かをされたなら、自分にとって都合の良いことだろうが悪いことだろうが『ありがとうございます』だ。いいな?」
「そんなまずいもの食べさせられて感謝もなにもないでしょう」
「くくっ、よほど安い味が嫌いらしいな」
「……チョコレート以外は嫌いだし、いつも食べてるアイス以外は嫌い。安いのとバニラは特に嫌い」
あれか、意識高い系ってやつだろうか。例の高いアイス以外口にしないというのは、ほぼ情報通りか。バニラが嫌いというのも珍しいな。
まあ買ってきたの全部安いバニラなので一番嫌いなやつを食べてもらうわけか。
俺は冷淡に告げる。
「お前の事情なんて知ったことではないんだよ。早く咥えるんだ」
もう一度アイスを口元に差し出すも、笹露はぐっと唇を閉ざしてこちらに反抗的な目を向けた。
これは自発的に食べそうにない。
やり方を変えよう。
「さっさと食べないか。でなければお前の参照者としての核を破壊するぞ」
仕方がない。まずは俺の命令に徹底的に従うことから憶えさせたほうがいいな。
「……くっ」
ためらいながら、笹露は俺を睨む。
彼女もさすがに「一思いにやれ」とは言わない。潔く参照者としての命を差し出すほどの覚悟はないようだ。
……それとも、彼女は核が破壊されたらどうなるか知っているのだろうか。須藤が言っていたことよりも恐ろしいことになるのならば、脅しに応じるほどの理由にはなる、か。さてさて。
まあ、今はどちらでもかまわない。とりあえずこのネタは十分に利用できる。畳みかけよう。
「すぐに核を破壊しないのは情けだと自覚しろ。今ここでこうしていられるのは俺のおかげだと理解しろ。感謝されても睨まれるいわれはないはずだ。それがなぜわからない?」
いや、甘いか。これはちょっと土が柔らかくなりそうだ。
「選べ。さっきも言ったように拒否権はないし、発言権もない。お前が自由にできる時があるとすれば、俺が命令した時だけだ」
土の能力で縛るほうが拘束力が高いとはいえ、これは俺自身かなりきついかもしれない。
言葉選びは大した苦労ではないが、能力を連続して使っているとかなり精神がすり減るわけで。
……燃費悪いからな、この能力。
「食うか否か、選べ」
もう一度言うと、険しい表情をしていた笹露は観念したように苦渋に満ちた顔になる。
ていうかバニラくらい食えばいいじゃん。能力の喪失と天秤にかければぶっちゃけ一択じゃん。そこまでバニラアイス嫌いなの?
思っていると、笹露はようやく差し出された棒アイスに、自ら口元を近づけた。
「……ぺろ、うえっ、う……」
恐る恐る舌を出して、バニラアイスをちろちろと舐め始める。かなり嫌そうな顔だ。手足を縛られているせいなのと嫌いな食べ物のせいなので、かなり動きがぎこちない。
「そんなちまちま舐めていたら日が暮れるぞ」
「…………」
アイスに舌を這わせていた笹露の動きが止まる。
「どうするんだ? 自分で考えろ」
急かすと、口を軽く開いてアイスの亀頭部分(何それ)の一部へ控えめに接触する。
「……ん、ちゅっ……ちゅ……ふ……んぁ、ちゅっ」
慣れない動きで一度触れては離れ、触れては離れを繰り返す。上唇と下唇に何度も挟まれたアイスが、ゆっくりとだが少しずつ質量を減らしていく。
唇の熱で溶けたバニラの乳白色の液体が、落ちて黒いタイツの上に滴った。
「おいおい、こぼすなよ。汚いな」
「ちゅっ……しょうがないでしょう。食べにくいんだから」
一旦アイスから口を離した笹露は俺に抗議する。
「知らん。自分で工夫しろ。こういう棒アイスは食ったことがないのか?」
「……ないわよ」
「初めて口にした感想は?」
「くどい甘さに乳臭いにおい……最悪」
「俺は優しいだろう? こんな美味い物があることを教えてやっているんだ」
俺は手を拘束している粘土が柔らかくならないよう、かなり高圧的な語調で言う。
まあ味はいつも食っているカップアイスとは雲泥の差だがな。
笹露は、言い返さない。
「…………」
「『はい、ありがとうございます』だ。俺が質問しているんだから言葉に詰まるな」
「……『はい、ありがとうございます』」
「そうだ。あとちゃんと咥えろ。そうしたほうが早いぞ」
言ってから、慌てて、
「そんなことサルにもできる。いちいち言わせるな」
取り繕う。
「…………」
「返事は」
「……『はい』」
返事をしてから、笹露はわずかに残っていたアイスを一気に口の中へ入れる。
「全部口の中に入れたら、ちゃんと飲み込むんだ。間違っても吐き出したりするなよ」
「んむっ、じゅる……んくっ」
あまり味わっているとは言えない動きで、笹露はアイスを完食した。
「食べたんだからもういいでしょう。これでこんなふざけたこと終わりにして」
眉間にしわを寄せながら目をそらす笹露。
「終わり? 終わりと言ったのか?」
俺はオーバーに声を上げ、冷凍庫から同じ円柱形のアイスバーを取り出した。
封を開ける。
「まだ一本目じゃないか。アイスはまだまだ買ってあるんだ。遠慮せずに食べろ。……いつもと同じようにな」
冷凍庫の中に同じようなのが山と積まれていたのを目撃した笹露の顔が、さっと青ざめていく。




