幕間
吸い込まれそうな闇を抱えた室内だった。本棚が並んでいるのがうっすらと見える。
アンティーク調の、落ち着いた木製テーブルと椅子があった。向かい合うようにして置かれた二席に、二つの人影が座っている。
テーブルの上には二人分のティーカップ。中に入っているのは温かい紅茶だった。だが楽しげに茶会をするには、この空間はあまりに薄暗くあまりにつつましやかで、底抜けにひっそりとしていた。
一人がその紅茶を手に取って、
「もう知ってる? ディアボロスが記憶を取り戻して、世界支配のために動き出したって……」
弾むような声で向かいにいる人物に話しかける。女性の声だ。若い、少女の声色。
「知っている。記憶が戻ったなら、『計画』を次の段階へ移す必要がある」
不機嫌そうな重い声が響く。同じく若い女の声だった。
「彼が『参照者』になったのは予想外だったりする?」
「なろうがなるまいが『計画』に支障はない。とにかく『本』と『鍵』の両方が奴に渡ることだけは避けねばならない」
「うん、確かにね」
「それで? どうするんだ」
重い声は淡々と伺う。弾む声はやや悩んでから返答した。
「えーあたしに意見聞くの? 『計画』を発案して、遂行しているのはあなたなのに?」
「そうだ。それが私の役割だ」
「んーと、まだ様子見しよう?」
「勝手にしろ。覇王討伐の指導者――カストールの後継はお前なんだから」
「あたしに倒せると思う?」
「やってもらわねば困る」
弾む声の主が紅茶の入ったティーカップを口元に近づけた。一呼吸おいて、重い声は忠告する。
「ただ、あまりもたもたしていると私が独自に動くぞ」
「んー、それも『計画』?」
弾む声の主が言いながら頬杖をついた。
「そうだ。そして私の判断でもある。奴が記憶を取り戻したからには、早急に事を進める必要がある」
「くすっ……あたしはあたしのやり方でやるからね」
「どんなやり方でやっても構わないが、すべては復活したディアボロスを倒すためだ。それは肝に銘じておいてもらう」
重い声の主は、椅子の背もたれに体重を預ける。それからまるで夜空でも見上げるように、無機質な天井を仰いだ。