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俺の強さが行方不明 ~昔は最強だったが今は粘土こねてるだけ~  作者: 裏山吹
第二話 調教の通常運用(リアルスキル)
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1 襲撃:うさちゃん

 放課後になっても、姫鶴は来なかった。


「あの馬鹿者、さっそく俺の命令を無視しおって……」


 俺は苛立ちを感じながら悪態をついた。

 放課後、体育館裏で待ち合わせをしていた。今日まさに『本』の力を引き出すための『鍵』を奪いに『創韻倶楽部そういんくらぶ』のもとへ行くというのに、姫鶴はまだ来ない。


「まあいいじゃないか。姫鶴さんにも事情があるんだろう」


 『七つの大罪』の独りである須藤薫すどうかおるは表情を引き結び、腕を組んで壁にもたれかかるいつものスタイルだ。


「ところで俺三年でお前より学年上なんだけど、敬語使わないのか?」


 須藤は報告するように言った。嘘だろおい。こんな痛い三年がいるのか。

 ディアボロスの時を含めると俺のほうが相当先輩なわけだが、そもそも敬うべき男だろうかこいつは。


「行くぞ。あんなの待ってたら日が暮れる」


 気が向いたら敬語を使うことにして、今は目の前の目的を優先する。


「す、すみませぇーん」


 行こうとすると、姫鶴が転びそうになりながらも慌てて駆けてきた。


「あうっ」


 苦しそうに走ってきた姫鶴の額に、俺は手刀を繰り出す。


「すみませんじゃないんだよ、遅れるなと言ったはずだろう。メイン盾が来なくて俺はすごく困ってたんだが? どう責任をとるつもりだ?」

「それどういう意味ですかあ! いざとなったら私を犠牲にして自分は助かるみたいじゃないですか!」


 姫鶴は力に押され背を反らしながらも反論する。


「わかってるじゃないか」


 俺は笑いながら答えると、「うーっ」姫鶴は額を押さえながら悔しそうに唸った。


「そういうときは俺を盾にするといい――俺が犠牲になる」


 須藤は須藤でよくわからない考え方をしていた。ドMかよ。

 何はともあれ、三人揃ったところで、俺たちは校内へ歩を進める。

 創韻倶楽部の部室は、使われていない空き教室である。そこを目指す。


「基本的に相手は三人だ。三人が三人とも『参照者トレーサー』だから、注意したほうがいい」


 須藤は創韻倶楽部の面々と面識があるらしい。


「三人しかいないのか?」

「基本的に部室にいるのは三人だな。あとはわからん」


 おいおい、ずいぶん適当じゃないか。もう少し敵のことを知ってから襲撃作戦立てたほうがよかっただろうか。


 ――いや、勢いも大事だ。このままいってみよう。


「部室へ行く前にお前らに被り物をしてもらう」


 そのまま行こうとする二人を止めて、俺は告げた。


「被り物? なんだ? 変質者を装うってのか?」


 須藤がかなり的外れな意見を言う。誰がパンツなんて被るか。


「ななななんでまたそんな変な提案を!?」


 姫鶴が赤くなりながら自分のスカートの前と後ろをめくられないように押さえている。いやお前のパンツなんて狙ってねえから。


「あのな……そうじゃなくて」

「で、でも、それが必要なことなら……遼さんがどうしても命令するなら、あの、私、恥ずかしいけど、脱ぎます!」

「脱ぐなよ、だから! 意を決してんじゃねーよ! だいたいパンツなんてかぶったら顔はかろうじて隠れるかもしれないが変態のオーラが隠れないだろ! 目立つわ! だったら自分のズボンかぶるわ!」


 違う。そういう話じゃなかった。

 俺の言い方も悪かったかもしれない。


「お前らにはこれをつけてもらうんだよ」


 と、俺はカバンの中からあるものを人数分取り出す。

 ユルいうさぎのキャラクターを模した仮面である。お祭りで売ってそうな安っぽい作りのやつだ。

 受け取った須藤が苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「なんだこれ……」

「わっ、まんなかぐらしのうさちゃんだぁ。なんでこんなもの持ってるんですか?」


 姫鶴は何のキャラクターか知っていたらしい。さすがに子どもに人気なだけある。


「ばれないようにこれで顔を隠す。まあキャラクターなんてなんだってよかったんだが、おもちゃ屋で安かったからな」


 本当になんでもよかったのだが、知っているキャラクターだったからこれにしてしまった。

 姫鶴は仮面をつけることは苦ではない様子だが、須藤はかなり不満そうだ。


「なんでこんなものつけなきゃ……ていうか俺、顔バレしてるんだが」

「そんなことはどうでもいい。いいか、とにかくこの作戦は迅速さが大事だ。やることは所詮押し入り強盗だからな」

「ずいぶん物騒な話だな」

「一番有効な方法だ。須藤、お前使ってない化け猫のストックまだあるだろ。あれで混乱させてからどさくさにまぎれて『鍵』を奪う」


 俺が考えたのは虚を突いた電撃作戦だ。勝負は一瞬で決める。

 後々のことを考えて顔がばれるのはまずい。同じ学校なのだからすぐに見つけ出せる。だから仮面をかぶっておくのだ。


「でも、『鍵』がどこにあるかわからないんだから意味なくないか?」

「大事なものなんだからそれらしいところに保管してあるだろ」

「誰かが持ち歩いてるかもしれないだろ」

「本当に守らなければならないものなら、逆に持ち歩くほうが危険が多い。まあそれは実際に行って確認してみて、部室の中にそれらしいものがあればビンゴってことでな」


 名付けてうさぎ襲撃作戦ということで。いざとなれば須藤が犠牲になってくれるらしいし楽な仕事だ。

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