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部屋の中、一人の少女がベッドで上体を起こしている。
控えめな色のカーペットに、整然とした室内。机の上も片づけられていて近頃使用した形跡はない。キャラクターものの古い目覚まし時計が、寂しげに時を刻んでいる。掃除はしっかりとされていて埃などは落ちていないが、生活感はどこか希薄だ。ただ、本棚には隙間なく様々な本が詰め込まれていて、そこだけにぎやかといえばにぎやかだった。
無機質の雰囲気漂う部屋と同じく、ベッドでじっとしている少女の顔にも色がない。どこも見ていないし、何も聞いていない。表情もなく、何かをしゃべる様子でもない。
高校生くらいの女の子である。細く長い髪の毛先にはやや癖があるだろうか、前髪は伸ばしっぱなしで目にかかるほどだ。少し小柄で、あまり外に出ないのか肌は日本人にしてはかなり白い。
呼吸はしている。死んでいるわけではない。
心もなくただ生きている。そんな印象。
「また来ちゃいました……」
姫鶴はそんな彼女の手をとって、薄く微笑んだ。
手を握られた少女は、わずかな反応さえない。誰かがいることを認識できるだけの意識がないのだ。
「おととい私が言ってた男の人、あなたが以前話してた仲門遼さんでした。びっくりです」
姫鶴は楽しそうに話しながら、表情を濁らせる。
「でも、なんていうか、面白い人っていうよりはいじめっこでしたよ。すごくいじめっこでした。聞いてたのとちょっと違った……」
姫鶴がしゃべっている間にも、彼女に反応はない。姫鶴もそれがわかっているのか、一人で話を進めている。
「でもね、なんだかんだ言って優しいところもあって……いや、でもやっぱりかなりいじわるでした。いちおう私に協力してくれるって言ってたけど、その前には裏切るとかなんとか言ってたし……でも、がんばります。たとえ大変な道のりでも、きっと『本』を手に入れて――」
姫鶴は改めて決意を固めるように手をぎゅっと握って、言葉を切り、
「――小葉菜ちゃん、絶対にあなたの心を救ってみせますから。待っていてください」
呪文のように、自分の願いを口にした。