8.子犬と着替え
読んでくださって感謝感謝です。
ポツポツと進めて参ります。
緩やかに経過していく日常に少しの変化が訪れたのは今日、気候的には春に近い日和の事だった。
昼のご飯を終えた儂が、机に向かい本を読みながら暖かい陽気に当てられてウトウトしていると、トタトタと儂の部屋へと駆けて来る軽い足音が聞こえてくる。
この足音は、と頭の片隅に考えていると、勢い良く部屋のドアがノックも無しに開け放たれた。
「アオイちゃん!!」
「やはり、お主か……」
案の定と短く息を吐き、読みかけの本を閉じる。
突然の訪問者は、儂の幼馴染であるユウキ・サシガネであった。
「どうしたのじゃ、そんなに慌てて」
「大事件だよ!!アイシアの領主様が変わるんだって!!」
鼻息荒く喋るユウキに、儂は暫し空を眺める。
以前何処かで聞いた気がする情報に、記憶を彷徨わせる事数秒。
「あぁ、そう言えば街でそんな噂を聞いた気がするのう」
「それでさ!ぱれーどっていうのがあるんだって!!一緒に見に行こう!!」
鼻息収まらぬユウキは興奮しながら儂に詰め寄る。
まぁ待てとユウキを押し離し、本をしまう為に立ち上がる。
そして本棚の方へ移動する儂に、ピョンコピョンコと子犬のようにまとわりつくユウキ。
「ね~、いいでしょ~。いーこーおーよー」
「ええぃっ、お主もうるさいやつじゃな!解った!解ったから服を引っ張るでないっ!!」
「ほんと!!?出店も出るって言ってたよ!甘いのあるかなぁ~♪」
儂の言葉にユウキはまたもピョンコピョンコと飛び跳ねる。
未だはしゃいでいるユウキに、子犬め、と少しの悪態を付きつつ、儂は服を漁る。
「えぇい、もうこれで良いか……」
適当に外着を選び、儂は徐ろに上着を脱いで、ベットへと放り投げた。
その様を見ていたユウキが先程迄のはしゃぎっぷりはどこへ行ったのかピタリと固まってしまう。
儂はそんなユウキを見つめ、小首を傾げる。
「なんじゃ、急に固まって、何か踏んづけたか?」
跳ね回っていた為に床に落ちていた何かを踏んづけたのかと足元を見る儂を余所に、ユウキは儂を見たまま固まっている。
儂はゆっくりとユウキに近づき、顔を覗きこんだ。
「お~い、どうしたのじゃ?ユウキよ」
息がかかる程近くによった所でビクリとユウキの体が跳ね、後ずさる。
「そ、そとで!そとで待ってるから!!!」
急に気がついたかのようにそう告げたユウキは、急いで方向転換し、またトタトタと軽い足音を残して部屋を飛び出していった。
「忙しないやつじゃのう。まったく……」
儂は頭をポリポリと掻く。
そこで儂はようやく気がついた。
ゆっくりと儂の体を見る。
無造作に上着を脱ぎ捨てた結果を。
「なんじゃ。いっちょまえに照れておったのか、あやつ」
ポツリと呟き、儂はゆっくりと服を着替えるのだった。