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転生異世界忍法帖。  作者: 熊田猫助
一章「転生と幼少期」
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7.修行中

この世界でアオイとして過ごし、1年余りの月日が流れた。

相変わらず平和で温かい時を過ごしたが、充実した毎日であった。


早朝。

儂は自然に目が覚める。

年寄り臭いと思われるかもしれないが、最早日課と化しているので致し方がない。

目を覚ました儂は顔を洗い、手早く着替えを済ませる。

以前はヒラヒラとしたスカートしか無かったが、母に無理を行って儂様のズボンを作ってもらった。

修行をするのにスカートでは不便で仕方がない。

まぁ母は修行用だとは露ほども思ってはいないだろうが。

閑話休題。


手早く着替えを済ませた儂は両親を起こさぬよう静かに家を出る。

未だ人が動き出している気配は無く、静けさだけが朝を支配している。

朝の冷たい空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

そして軽く準備体操をして、儂は走り出す。

目的地は半年ほど前に見つけた儂の修行場だ。

修行場と言っても大それた所ではなく、人があまり近づかない森の開けた場所であるが。


一先ず儂は日課としている、ここアイシアの街の外周を軽く一回り。

極稀に朝が早い人に目撃されるときもあるが、最早朝のランニングは儂の代名詞、は言いすぎだが、軽く挨拶をする程度で気にもされなくなっている。

儂の体内時計が正確であるならば、四十分程で一周し終え、朝のランニングは終了する。


そして次は森の中へと入っていく。

入って暫くは少し人の手が入っている為に開けた道があるが、中腹に差し掛かると最早それは獣道とも取れない道無き道になる。

儂は道無き道に差し掛かって直ぐ、並び立っている木を順に蹴り、木登りを開始する。

転生前も苦手と言うほどでもなかったが、この姿になって身軽さが増した為にこの程度は造作も無くなっていた。

まぁ記憶に体の動きがついてこず、何度も木から落ちては擦り傷、打撲で母に叱られたのは遠くはないが過去の話である。


木の中腹程度まで登った所で、次は前の木へと飛び移る。

ここから先は人の手が入っていない為に鬱蒼と生い茂る木々達が所狭しと立ち並んでいる。

儂はリズム良く、前へ前へと木から木へと飛び移りながら森の奥へ進んでいく。

端から見ると猿のようだな等と頭の隅で考えながら。


暫く進むと、人の手が入ったかのように開けた場所に出る。

綺麗に、円形にポッカリとそこだけ木々が生えていない。

唯一円形にあいた空間の丁度真ん中に他の木とは一線を画く大樹が威厳を帯びて聳え立っている。


短く息を吐き、木から地面へと飛び降りた。

滲む汗をシャツの裾で拭い、持参していた木で出来た筒を取り出し、煽る。

この世界の水筒のような物だ。


一息ついた儂は軽く屈伸をした後、深呼吸し、構える。

最早癖となっている一連の動作。


葵流と呼ばれる儂が現世で鍛えし技。

武芸十八般と呼ばれる基礎を礎に、体術と忍術に重きを起き極めんとするが我が葵流。


体は半身に、左手を開き胸の高さへ、引き絞る右手は腰に当て拳を握る。

儂が得に好む葵流基本構え。


その構えを取って数秒、大樹から三枚の葉が見計らった様に落ちる。

まるで大樹が儂の修行を手伝うかの如く、強い風もなく落下する葉。

風に乗り、ヒラヒラと不規則に揺れ落ちてくる葉は、数秒の時をかけて儂の前へと至る。


儂は短く息を吐き、一枚目の葉を目掛け、引き絞った右拳を繰り出す。

二枚目、三枚目と落ちてくる葉に連動して左、最後に右と拳を当てる。


葵流「三葉」


拳が当たった葉は、地面につく前にパッと乾いた音を立てて弾ける様に四散した。


技を繰り出した後、すかさず元の基本構えへと戻り、バラバラになって地面へと落ちた葉を暫く見つめていた。

構えを解き、溜息をつく。


「やはり、拳が軽い」


独り言を呟く。

おなごの体が、思った以上に軽い事に悩まされている。

まだ体が小さい事もあるが、このまま大きくなったとしても先は見える。

筋肉のつきも悪い。

あまりにでかい筋肉は動きが制限される為に必要無いがある程度は引き絞らねばならない。

まぁ筋力は努力でどうとでもなろう。

しかし、拳の軽さ、これは生来の物。

剛拳、一撃で命を狩る葵流の極意に到達出来る気がしない。


もう一度溜息をつき、顔を上げ、目の前に聳え立つ大樹を見る。

今一度夢を追う機会を与えられたのだ。

贅沢を言っては罰があたる。

儂は儂に与えられた物で生きる他無い。


拳は軽いが身の軽さは武器になろう。

中々諦めがつかず、ここ半年程悩んでおったが。


「それにしても、お主はでかいのう」


こうも立派な大樹を見ていると儂の悩みのなんと小さき事かと笑えてくる。

未だ天啓は来ず、しかし、いずれ時は来る。

儂には唯盲目に信じ、その時まで己を磨き続けるしか能の無い奴よ。


「これからも、よろしくたのむ」


今一度大樹を見上げ、儂はポツリと呟いた。


それから儂は一通りの型稽古をたっぷりとした後、朝飯に遅れそうになり、急いで元来た道を帰るのだった。

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