6.異世界と儂の夢
サシガネ殿のお宅から帰宅して夕御飯を食べた後、儂は最早日課になりつつある読書を進めていた。
月明かりが差し込む部屋。
ろうそくに火を灯し、机に向かっている。
ゆっくりとページをめくる。
今読んでいるのは、この世界の歴史書だ。
ヴェイリース皇国、アリス教国、シント共和国、バルムント帝国。
この異世界の歴史は、戦争の歴史だった。
十以上あった国は、今ではこの四つの強国まで淘汰され、今では均衡を保っている。
四国同盟なるものが締結されたのが八年前であるらしい。
今はそれぞれが力を蓄えている時期と見ているのがこの歴史書の見解である。
いつ、どの国が、どのように動くかによって今後がどうなるのかが決まるだろう。
それにどんな意味があるのかは解らないが、未だに四つの国それぞれがこの世界の覇権を狙っているのは変わらない。
平和な現代から一転、一触即発とまではいかないまでも戦国に近い世界へと転生したらしい。
儂には夢があった。
現代で何度も読み返した御先祖様の古書。
戦国時代の大名に仕え、その力を惜しむことなく振るった御先祖様の武勇伝。
なんと心が踊った事か、どれほど嫉妬に狂った事か。
平和な現代で力を振るうには、志が、目的が、大義名分が、皆無だった。
儂の祖父から、親父殿から、伝えられ鍛えられた技のなんと無意味だった事か。
盲目にいずれ力を振るう時が来ると信じ続けたが、その時は来ないと悟った時、儂の命も尽きた。
しかしどうだ。
今のこの状況。
儂の盲目な祈りが神に通じたか。
力を振るう機会、現代より余程近い場所に今儂はいる。
狂おしい程恋焦がれた大義名分を与えてくれる者が、この世界にはいるかもしれない。
否、居てもらわなければ困る。
笑みが零れる。
楽しみだ。
儂の夢は、この異世界で、叶う。
儂も力を蓄えよう。
準備を怠る事無く、努力を惜しまず。
儂に大義名分を与えてくれる者を見極めよう。
力を尽くすに足る人物を。
この国に居るだろうか、はたまた、こことは違う国に居るだろうか。
まだ見ぬ儂の主様よ、どうか儂を惚れさせてくれ。
儂をまだ見ぬ戦国の煌めく世へと誘ってくれ。
すごくすごく楽しみだ。