5.幼馴染の鍛冶屋にて
ブックマーク感謝です。
少しでも楽しんでいただければ幸いですorz
自宅から数分歩いた所でサシガネ殿のお宅へと到着した。
記憶通りの場所に鍛冶屋と思しき木造の家屋があった事に内心ホッとしつつ、ドアをノックする。
「アオイ・ハヤセと言うものだが、どなたかおられるだろうか?」
「はいはい~、ちょっとまっててねー」
儂の呼びかけにすぐに返事が返ってくる。
ドタドタと重い足音が段々と近づき、ゆっくりとドアが開いた。
出てきたのは割腹の良い男性で、腕は筋肉隆々、短髪に顎鬚といかにもな風体だった。
仕事をしていたのか、前掛けは黒く汚れている。
儂を確認したサシガネ殿はニコリとほほ笑んだ。
「おー、アオイちゃん。いらっしゃい」
「サシガネどの、無理をきいていただきもうしわけない。ほんじつはよろしくおねがいする」
そう言ってペコリと頭を下げると、サシガネ殿は目をシロクロさせている。
やはり以前の儂とは態度や仕草等が大きく違うのだろう。
まぁ慣れてもらう他無いと思っている。
「い、いや、まぁ遠慮せず自分の家だと思ってゆっくりしていきなさい……」
「かたじけない。それではおじゃまする」
もう一度ペコリとお辞儀をして、家の中へと入れてもらい、サシガネ殿は急ぎの仕事があるとの事で奥の仕事場へと消えていった。
一人取り残された儂は、取り敢えずどこかで座っておくかと歩を進めようとした所で、奥からペタペタと此方へ走ってくる人物がいた。
「アオイちゃん!!」
「ん、ええっと、おぬしは確か……」
記憶の中を探る。
わざわざ思い出さなければ出てこないのも考えものだが、一度記憶と一致すれば違和感は無くなるだろう。
「ええぇぇぇぇ!?あたまを怪我して僕のこと忘れたの!!?」
儂が思い出そうとした矢先、すぐさま儂の周りにまとわりつき、小さい体でピョンコピョンコと飛び跳ねる小さいオトコの子。
まるで子犬のようだ。
「子犬……、そうじゃ!お主がユウキかっ」
なぜ子犬で記憶が一致したのか定かでは無いが、恐らく以前の儂も同じことを思ったのだろう。
「えぇっ……、おぬしがって、それに何だか喋り方が可笑しいよ?」
「む、いや気にするな。儂がお主を忘れるわけなかろう。喋り方は……、そうじゃな、怪我のこういしょうというやつじゃ」
「ふぅん……、変なの」
そう言って小首を傾げる様はまたもや子犬を連想させるが、恐らくこの人懐っこい感じと体の小ささも手伝ってのことだろう。
ユウキの体は儂と同年代の割には一際小さいように思われる。
サシガネ殿には申し訳ないが、先程のサシガネ殿からユウキが生まれるとは突然変異としか言い様がない。
不思議だ。
閑話休題。
「そういえば、ユウキよ。お主にも心配をかけたようじゃな。すまぬ」
「ん?んー、よくわからないけど、元気そうでよかったよ!」
そう言ってニンマリと微笑むユウキに、儂もつい顔が綻ぶ。
素直でういやつだ。
「へへっ、そうだ!今日は何して遊ぼうか!」
「うーむ、そうじゃのう……」
ユウキの問いにしばし考えこむ。
遊びと言っても以前のアオイの様にままごと等をするには、儂の精神が持ちそうにない。
「そういえば、サシガネ殿は鍛冶屋を営んでおるんじゃったな……」
「うん?サシガネ殿……、あ、とうちゃんのこと?」
「うむ、ユウキのおやじ殿じゃ」
「そうだよ!いつか僕もとうちゃんみたいな鍛冶屋になるんだ!!」
「ほ、ほう……、それは、頑張らねばならんな」
ユウキのその言葉に、ユウキの体を頭から爪先まで見渡し、少し心配になったがそれは言うまい。
「それで、サシガネ殿はどんな物を作っておられるのか見せてくれんか?」
「うーん……、でもとうちゃん危ないから仕事場にははいるなって……」
「ふむ……、それもそうじゃのう。邪魔をしてはいかんし……」
「あ、そうだ!!とうちゃんが作った物が見たいんだよね!!?」
「うむ、それでもかまわん」
儂のその言葉にユウキはニンマリと笑い、手招きをする。
「こっち!とうちゃんが作った物置いてるとこがあるから!」
「お、まことか!」
「うん!部屋に飾ってあるんだ!!」
そう言って連れて来られたのは、どうやら客間のようだった。
そこの壁に立てかけられた物をユウキは指さしている。
それは、両刃の剣。
所謂ブロードソードと呼ばれる代物だった。
「これか……」
「うん!かっこいいでしょー」
「うむ、そうじゃな……」
ユウキの言葉に生返事を返す。
洋物。
刃の幅が広い。
サシガネ殿に少し話を伺いたかったが、ユウキでは解らないだろうか。
これがもしもこの世界で主流の刃物だとするなら、儂には扱いにくい。
日本刀を作るのはさすがに無理なのだろうか。
できれば小太刀が欲しい所である。
それともう一つ気になるのは甲冑だ。
これも恐らく洋物が主流であろう。
特注で儂の籠手を作ってはくれないだろうか。
まぁ、今考えても詮無いことではある事に気づき、頭をふる。
恐らく入用になるのはまだ先の事だろう。
「……ちゃん!」
「む?」
「あおいちゃん!!」
「お、おお、どうしたのじゃ。ユウキよ」
「どうしたのじゃ。じゃないよ!」
「おぉ、ははっ、儂の真似か?似ておらぬぞ」
「むー、急にぼーっとして全然返事もしないから心配したのに!!」
そう言って少し不貞腐れているユウキに、儂は少し微笑ましく思いつつ謝罪する。
「すまんすまん。ユウキのおやじ殿の仕事が見事なものでな。見惚れておった」
「へっへー。でしょー」
サシガネ殿を褒めるとまるで自分の事のように喜ぶユウキにまた笑みが零れる。
「うむ、いずれ儂にも作ってもらいたいところじゃ」
「え?アオイちゃん、剣なんているの?女の子なのに?」
「男、女は関係ない。必要なのじゃ。儂には」
「ふぅーん……。あっ!」
「ん?どうしたのじゃ?」
何かを思いついたという風な声を出すユウキに疑問を覚える。
問う儂にユウキはニンマリとした笑みを浮かべて言う。
「じゃぁじゃぁ、僕がアオイちゃんの剣を作るよ!!」
「ほう……、お主がか?」
「うん。だめ、かな?」
「ふっ……、儂は酷い客じゃぞ。無理難題をおしつける。それでもよいのか?」
「へへん。望む所だよ!!どんなものでも作ってみせるよ!僕は名工ギンジ・サシガネのむすこだからね!!」
「ははっ、そうか!よう言うた!なら期待して待っておるとするかのう」
「うん!」
またも自然と笑みが零れる。
いつか果たされるであろう約束に、年甲斐もなく心を馳せる儂だった。