4.おでかけ
この異世界で気がついて一週間がたった。
ようやく頭の包帯も取れ、部屋に置いてあった書物の半分以上を読み終えていた。
中々に興味を惹かれる書物が揃っていて夢中になってしまった。
この世界の地理、歴史、薬草学等から更には料理本まであったのはいささか驚いた。
今日もいつも通り朝食を終えて午前から書物を読み漁っていると、部屋にノックの音が響く。
儂が短く返事をした後、部屋に入ってきたのは両親だった。
「おや、また本を読んでたのかい?頭を打ってから本当に本が好きになったみたいだな。アオイには少し難しい気もするが……」
「あら、お勉強するのはいいことよ?」
「いや、ダメだとは言ってないさ」
儂を放って少し言い合いをする両親に苦笑いが漏れる。
どんな用だったのか、一向に話が進まなさそうなので儂から聞いてみる事にする。
「お二方、ずいぶんと正装のような服装をしておられるが、どこかへいかれるのか?儂もきがえたほうがよいのだろうか」
儂のその言葉にハッとした二人はそうそうと、思い出したように話を始める。
「今日は二人共非番が取れなくてね。今から仕事なんだよ」
「そうなのよ。アオイの頭の傷も大分良くなったみたいだし」
「それで、私の友達のサシガネさんの所でアオイを見てくれる様に頼んであるから、今日はサシガネさん所で遊んでてくれるかい?」
「ふむ、そういう事なら儂は留守をまかされよう。ふたりとも安心して、しごとに……」
「「ダメッ!」」
「う、うむ」
儂の申し出は、何故か見事に却下され、儂はサシガネと言う方の所へお邪魔する事になった。
どうやら進む方向は違う様で、両親とは家の前で別れる様だ。
「あ、そういえば、サシガネさんとこのユウキ君もアオイの事心配してくれてたみたいだよ。あ、それとちゃんとサシガネさんに挨拶するんだよ?あと……」
「お父さん、アオイはしっかりしてるから大丈夫ですよ。以前は心配だったけど、頭を打ってから急に大人びたと言うか……」
「そ、そうだな……」
顔を見合わせる両親に、少し冷や汗が出る。
「そ、粗相のない様に気をつけるゆえ、しんぱいごむよう!」
ピッと手を上げる儂。
その様を見ていた両親に何故か心配そうに見送られ、儂らは家を後にする。
件のサシガネという方の家は古くから鍛冶屋を営んでいるそうで、一人息子のユウキという倅がいるらしい。
らしいというか、アオイとして過ごした5年間の記憶ではそうなっている。
そのユウキという一人息子とはどうやら赤子の時からの付き合いで、幼馴染というやつらしい。
アオイとして過ごしていた5年間の内、何度も遊びにいっている為、場所に間違いはないハズだ。
儂は知らないが、知っている道を迷う事なく進む。
可笑しな話ではあるが、そうとしか言いようがないのだ。
それはさて置き、どうやらアオイとして過ごした5年間と、怪我の養生生活を送っていた一週間で大分体が訛っているらしいことに気づいた。
言うまでもなく1からのスタートである肉体に少し億劫を感じるが、それはそれで楽しみでもあった。
さて、明日からまた楽しい修行を始めるとしよう。
歩きながら笑いが零れるのだった。