23.盗賊団討伐3
突然の襲撃が一息ついた後、儂等は直ぐに陣形を整えて坑道の出入り口を封鎖した。
合計で8匹の化物が坑道から飛び出して来たが、あれで全てであるとはどうしても思えない。
それはクロハをはじめ、他の面々も考えは同じだった。
儂等は特に会話を交わすでもなく、すぐさま警戒を開始し、陣形を整え、身構える。
確かに、あの化物であれば8匹も居れば農村を襲撃し、戦う術の無い農民を虐殺する事は可能だろう。
しかし、あの襲撃での化物の行動等から察するに、下手をすると、あの化物共は農村の虐殺に関与していない可能性も考えられる。
確かにある程度、前世で言えば猿やチンパンジー程度の知能はあるかもしれない。
しかし、奴等に獲物を選り好みする様な素振りは無かった。
敵、獲物に襲いかかる獰猛な猛獣の様な物は感じられたが、その瞳に映っていた俺達を見つめる目は平等に獲物を見る者だった。
全てを殺し、全てを食らいつくす。
奴等に感じたのはそう言う意志だけだ。
しかし、農村の虐殺現場を見た時の儂の印象は違う。
あれは、明らかに殺しを楽しんでいる者の仕業だ。
恐怖に逃げる農民を殺し、死体を積み上げ、女子供を食らい、そして、火を放った。
先の獣に等しい奴等がした事とは思えない。
考えたくもないが、他にも居るのだ。
真の化物が。
皆が一様に、ゴクリと生唾を飲み込む。
暫しの静寂の後、それは起こった。
薄暗い坑道の奥から一匹の化物が飛び出した事を皮切りに、それは次から次へと暗闇から明るみへと溢れ出る。
猿の様な奇声を上げながら、数は数えるのも億劫になりそうなほどだ。
少なく見積もっても50は超えているだろう。
その戦い方も原始的な物だ。
唯々目の前に居る者に飛びかかる様な、そんな獣染みた攻撃が次から次へと繰り返される。
静寂が支配していたその場は、一瞬にして怒号と奇声、悲鳴や血飛沫が飛び交う戦場へと様変わりしていた。
「一匹一匹は大したことは無い!数は此方が勝っているんだ、落ち着いて対応しろ!」
「ギャッグギャッ!」
「ギャギャギャッ!!」
「くそ!化物共め!」
「くたばれっ!!」
シロウ殿の指示が後方から飛び、前方に陣形整えた兵士達と、化物共との闘いは激しさを増していく。
儂は三重に整えられた陣形の中央付近でその光景を眺める。
傍には儂の子供達の姿があった。
クロハやミナト殿は陣の一番後ろに移動している。
兵士達と化物共の戦いを見る限り、そこまで危な気は無い。
此方は襲撃に備えて待ち構え、統率の取れた動きを見せている。
相対する化物共には統率等、皆無に等しい。
唯々動物的な特攻紛いの攻撃を繰り返すだけだ。
時間はかかるかもしれないが、殲滅するのは時間の問題だろう。
恐らくこの中に指揮官の様な存在、一匹でも成長した個体の様な者がいるだろうと考えて前方で戦いを繰り広げる化物の群れを観察していたのだが全く見当たらない。
確かに数体、他と比べて体の大きい個体や、後方に控えている個体は見て取れるが、どれも群れのリーダーではあるのだろうがあの農村を襲撃したとはどうしても思えない。
やはりまだ別の何かがいると確信した時に、洞窟の中から違和感を感じとる。
儂等や後方に控えているクロハ達と同様に、この戦場の様子を伺っているかの様な視線を感じたのだ。
その視線に気づいたのは、どうやら儂だけではない様で、隣に居るカエデとツバキも気づいた様子だ。
儂と同様に、二人は戦場の後方、暗闇に支配された坑道の奥に睨むような視線を向けている。
儂はチラリと後方に居るクロハを見た後、隣に居る二人に告げる。
「アヤツは儂が行く。お主達はここでクロハを守るんじゃ」
「でもお姉ちゃん!あれは人なの!?」
「私も行きます。私達3人でかかれば倒せるかも……」
「いいや、あれが……、人である筈が無い。まぁ、人を食らう者が人のままで居られる筈も無いか」
「出てくるのを待って、全員でかかればいいんじゃないの?アオイお姉ちゃんだけで行く必要なんて……」
儂等三人の会話にユーリが口を挟んでくる。
確かに、全員で掛かれば倒せる可能性は上がるかもしれない。
しかし、それによって出る犠牲は計り知れない物になるだろう事が解る。
それ程の危険な気配をこの視線と共に感じていた。
その視線に晒されるだけで、体の奥底から震えが来る程の恐怖を覚える。
そんなモノがこの戦場に乱入しようものなら、混乱は目に見えている。
唯でさえ化物を相手にしているのだ。
その上更に、今相手にしている以上の化物が現れたらどうなるか解らない。
「いや、やはり儂が一人で殺る。この場が混乱すれば下手をするとクロハにも害が及ぶやもしれん。万が一、儂が負けたら……」
「やっぱり私もいく!」
「お姉ちゃんがそんな事を言う相手は今までいなかった。それ程危険な相手なら尚更一人でなんて行かせられない」
「聞け!」
「「……」」
少し声を荒げた儂の言葉に、二人は口を噤んだ。
儂は一度息を吐き出し、ゆっくりと口を開く。
「よいか。万が一儂がアヤツに負けそうになれば中から合図を出す。それを確認したら、クロハに直ぐに撤退を進言するんじゃ。出来る限り遠くへ逃げろ。命に変えてもクロハだけは守り抜け」
「でも……」
「……」
「そう心配するな。万が一の話じゃ……。それに、儂が負けると思うか?」
「思わない、けど……」
「……ユーリとカエデが居ればクロハ様は平気。だから私は……」
「ツバキ、これ以上儂を困らせるな。ハッキリ言おう。……足手纏いじゃ、付いてくるな」
「……」
儂の言葉にツバキは泣きそうな表情を浮かべた。
儂は手をスッと差し出し、優しくツバキの頭を撫でた。
「お主を守りながらでは満足に戦えぬ。なに、儂一人だけならば逃げるのも容易いじゃろう」
「……」
「解ったな?」
「解った……」
頷くツバキを見て儂は手を放し、後方のクロハへと体を向ける。
それに気づいたクロハは儂を見つめ、儂も視線を返す。
通じ合ったとは言わないが、恐らく儂がしようとしている事は察したのだろう。
何時ものクロハであれば、笑みでも浮かべて頷く所だが、今回ばかりは違った様だ。
クロハは神妙な面持ちのまま、首を左右に振る。
行くな、と、そう言っている様にも見える。
しかし、行かない訳にはいかないのだ。
最早人智の及ばぬ化物が溢れた以上、中の化物がどれ程の物か想像さえ付かない。
今逃げを選んだところで、どうなるかは神のみぞ知ると言う所だろう。
一瞬で追い付かれて全てを殺しつくす程の化物だとすればもう打つ手さえない。
中の化物の姿やその力を知る為にも、誰かが行く必要があるのだ。
倒せる可能性も、逃げを選択させ、時間を稼げる可能性も、全て儂がやった方が一番確率が高いと言えるぐらいの自負はある。
首を振るクロハに対し、儂は一度頷き、笑みを浮かべてそれを答えとする。
そして儂は、戦場へと向き直り、傍にいる3人の子供達に一言告げた後、駆けだした。
「よいか!撤退の合図を見逃すでないぞ!」
兵士が陣形を整える中をスルリと走り抜け、戦いが繰り広げられている前線へと辿り着いた所で全力で跳躍する。
前に居る兵士を飛び越え、下に溢れる化物の頭を踏み台にして更に前へ飛んだ。
それを繰り返して化物の群れを越え、地面へと着地し、暗闇が支配する坑道の中へと足を進めるのだった。




