20.新設騎士団
皇都からアイシアへと帰還して二日が過ぎようとしていた。
あれから儂とクロハとミナト殿は、新設の騎士団をまとめる為に奔走し、ある程度は形になった。
そして明日、遠征訓練と言う名の盗賊団討伐が開始される。
ここで簡単に騎士団について話しておこう。
まず、団長であるクロハを筆頭に、総勢100名からなる近衛兵団「黒蝶」を率いるミナト殿。
残る自警団とアイシア駐屯兵団の総勢400名からなる「黒羽」を駐屯兵団の団長だったイリサワ殿が率い、総勢350名の3つの傭兵団の集合体である「白羽」を傭兵団白狼を率いていた団長シロウ殿が率いる事となった。
それぞれの部隊には副隊長が2名づつ配置されている。
因みに儂は完全な独立部隊だ。
儂を筆頭に、カエデ、ツバキ、ユーリと、予定人員としてサクラにレン。
部隊名を決めろとクロハに言われていたのだが、ギリギリまで思いつかず、そのまま「シノビ」となった。
それぞれの部隊を率いる三人、ミナト殿、イリサワ殿、シロウ殿を副団長とし、各分隊等に配置された分隊長等を含め、総勢868名。
これがクロハの率いる騎士団の先駆けであり、これから先、皇帝より「鬼」の名を冠する事を許され、「黒鬼」の名で呼ばれる事となるのだが、それはまだ先の話。
さて、本日もクロハに呼び出されて弄り倒されたその帰り道。
正面の庭を抜ける途中でバッタリと出くわしたのは、副団長のシロウ殿と二人の男性だった。
傭兵団白狼を率いていたという24歳の青年だ。
両隣に居るのは、確か、残る二つの傭兵団を率いていたという二人の副隊長。
副団長に副隊長など、ある程度の役職を与えられた数名は、領主邸に部屋を用意されているので、恐らく夜風にでも当たりに来たのだろう。
ある程度まで近づいた所で、シロウ殿は深くお辞儀をし、話しかけてきた。
会釈程度で構わないかと思っていたのだが、話しかけられてはそうもいくまい。
「えっと貴女は確か……、クロハ様の側近の方ですよね」
「これはこれは、シロウ殿。よい月夜じゃなぁ。……側近、と言ってよいのかは迷うのじゃが、儂はアオイと言う。これからの戦で背中を預ける事もあるじゃろう。よろしく頼む」
「え、あぁ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
少し戸惑いがちにまたペコリと頭を下げられた。
傭兵団を率いていたという割には存外腰が低い男という印象を受ける。
儂のような見た目的に若輩の者にも偉く丁寧に話している。
昼間と少し印象が違う様な気がするが、気のせいだろうか。
その瞳に映るのは、少しの興味と、……緊張か?
長めの黒髪を後ろで纏め、服装は平民と大差ないシャツにズボン。
少し垂れ目がちで、左目の下の泣き黒子が印象に残る。
傭兵と言っても疑ってしまいそうな程優しい顔つきの男だ。
その隣にいる二人に目をやると、二人とも如何にも傭兵ですという風貌に、筋骨隆々という言葉が似合う。
そんな二人と並んでいる為か、一際浮いて見える。
まぁ、これで勇名な白狼を率いていたというのだから、人は見かけによらぬという物だ。
「あ、えっと、その、それでは……、私はこれで。おやすみなさい」
「む?うむ、もう夜も更けておるしな、長話もなんじゃ。それではシロウ殿にお二方、良き夢を」
そう言葉を告げ、三人にペコリと会釈をした後、儂は子供達が待つ我が家へと帰っていくのだった。
後ろを振り返る事は無かったが、偉く長い間儂の後ろ姿を見つめていた様だが、気に障る事でも言っただろうか?
「ただいまー、儂が帰ったぞー」
そんな疑問も得に気にする事も無く、家主のお帰りだと我が家に入った瞬間、奇麗さっぱり忘れ去る儂であった。
少しだけ時を遡り、軽く会釈をして去っていく女の子の後ろ姿を見つめる一人の男。
クロハの呼びかけに答え、傭兵団白狼を率いていたこの男は、命じられた二つの傭兵団を飲み込んだ後、ここアイシアの町へ無事に到着し、そのまま白羽を任された男だ。
名はシロウ。
彼は元孤児であり、傭兵団に拾われた。
それから10年間、ただひたすらに命を落としたくない一心で、唯々人を殺す術を磨き続けてきた。
気が付くと、拾われた傭兵団の中でトップに座っていた。
最初にクロハからの誘いを受けた時はどうしようか悩んだのだが、皇族の招集する騎士団に配置されるとなれば、一傭兵団としてやっていくよりは遥かに安定が見込める。
了承の返事を送ると同時に、指定された傭兵団の説得を命じられ、言われるがままに飲み込んだ。
少し骨は折れたが、さして難しいとも感じなかった。
まぁそんなこんなでこうして現在、今まででは考えられない程の待遇を受けている。
与えられた部屋に、約束された賃金などにも驚いたが、意気投合した二人の部隊長を連れて町に飲みに出かけた帰り道。
シロウは更なる衝撃を受けた。
月の輝きに照らされて光る長い黒髪。
少し眠そうな眼は切れ長で、整った目鼻立ち。
足音もさせず、目を反らせば一瞬で消えてしまいそうなほどに気配が無い。
妖しく、美しく、儚い。
そんな美少女。
これは正しく、一目惚れという物か!
「おい、こら、ロリコン」
「ロリコンちゃうわ!!」
急な罵倒にシロウは即座に反応し、先程まで送っていた熱視線を止めて声のしたほうへと睨みを利かせる。
シロウに睨まれた男は、呆れた顔でポリポリと頭をかく。
ぼさぼさ頭に、右目に大きな傷がある壮年の男は未だ睨んでくるシロウにあからさまな溜息をついた。
「何その溜息。腹立つんですけど!ロリコンじゃないですから!」
「いや、あれはどう見ても子供だろ?まぁ、将来イイ女になりそうではあるが……」
「あぁ!やめろ!想像するな!ガロウ!コラッ!彼女を汚すんじゃない!!」
ガロウと呼ばれた男はまた溜息を吐く。
そんな二人を見てクスクスと笑うのは、短く刈り揃えた短髪に、妙にシナを作っている筋骨隆々の大男だ。
胸元を大きく開き、覗く厚い胸板が印象に残る。
「あらあら、シロウちゃんったら惚れちゃったの?」
「あぁ、彼女はひょっとして女神じゃないのか」
「ぷふっ、女神って(笑)」
「殺すぞ!」
「あらまぁ、ちょっと妬けちゃうわぁ。さっきまであんなに私に夢中だったのにぃ」
「誤解を招く言い方は辞めてくれるかな。アヤさん」
こうして、領主邸の庭でワイワイと騒ぐ三人の男たちの夜は更けていくのだった。




